御門と女装

 6月を迎えた。「コンピ研でも何か、新しいことをやってみたいな」そう思った矢先、僕は朝比奈さんがメイドの格好をしている画像を偶然……そ、そう偶然、発見した。最近部員たちの士気が下がっているような気がしていた僕は、あることを思い付いた。そうだな……御門にメイド服を着せたらどうだ?本当は女子部員が加入していれば一番いいが、そうもいかないからな。

 翌日の部活が始まり、早速僕は御門にメイド服を提案した。佐東や児林は乗り気だったが、御門は「えっ」と呟いたきり何か言いたそうに俯いてしまった。守家が「ぶ、部長、それはちょっと──」と言いかけたところで、御門が「皆さんがそう望んでるのならやってもいいですけど……その、ちょっとメイド服は……」と言い、佐東が「そうかー……あ!だったらバニーは」と言いかけたところで「そうじゃないですっ」と御門が突っ込む。「で、ではどうすればいいんだ?」と僕が問いかけると、守家が「あの、衣装で僕に考えがあるんですが」と口を開く。

「ほう?言ってみたまえ」

守家はあるコーディネートを提案する。御門もその衣装で了承してくれた。

 ついにその日がやってきた。部室に全員が集合し、守家が買ってきた衣装を御門に渡したところで、示し合わせたように僕らは部室を出て、御門が着替え終わるのを待った。

「あの、どうでしょうか、皆さん」

御門は部室のドアを開け、もじもじしながら姿を見せた。紺の襟と紺のスカートという、伝統的なスタイルのセーラー服に、胸元にワンポイントが入り、体に沿うように太いラインが一本ずつ入った小豆色のエプロンをまとっている。


──最高だ。恐らく、御門以外全員がそう思っただろう。


 そして佐東が、紙袋からウィッグを取り出した。襟足だけのウィッグのようで、御門を椅子に座らせ、佐東は器用な手つきでウィッグを御門の髪に付けていく。御門は戸惑うような表情を見せながらも、和やかな雰囲気だ。

「ああ……俺の手でどんどん御門が可愛くなっていく~」

「もうっ、やめてください」

作業が終わると佐東は御門の肩を握り、「ふふん。どう?」とこちらに満面の笑みで見せてくる。

「いやぁ、予想以上の仕上がりじゃないか!」

「似合ってるぞ、御門」

「御門くん可愛い!」

「えへへ……そうですか?皆さんに気に入っていただけたのなら、嬉しいかも……」

 そんなこんなで佐東の発案により御門の撮影会に入った。僕、児林、守家、佐東と続き、御門が次々とデジタルカメラで撮られていく。特に佐東は指示が細かく、御門は渋々ポーズを取っていく。次第にポーズが際どくなっていった。最終的に床に座り込み、後ろに手を付くポーズで撮影したところで、守家が「佐東、これ以上は流石にやりすぎだろ。グラビアの撮影じゃないんだ」と、佐東を止めに入った。

「部長もそう思いますよね」

「ええっ!?え、あ、いや、た、確かにそう思っていたところだ。御門が困ってるだろ」

だが守家。正直、いきなり話を振られてびっくりしてしまったぞ。

 この後も御門には、一日メイドとしてお茶くみをしてもらうことにした。早速僕にお茶が渡される。僕は見慣れたはずの御門なのに、なぜか緊張してしまった。

「どうぞ、部長」

「あ、ああ。ありがとう」

他の皆も、児林は満面の笑みで、佐東は明らかにニヤついた表情で、守家は僕と同じく、そこはかとなく緊張した面持ちでお茶を受け取る。何だか異様な雰囲気だな。

御門はその格好が気に入ったらしく、お茶くみが終わった後もそのまま着替えずに、いつもの活動に戻った。時折男のときの癖か、足を少し開いているのを目にしてしまい、思わず僕が目を逸らしてしまうこともあったが、かねがね順調に部活が進んだ。


 しかし御門、君は本当にこれで良かったのかい。この時僕はどうすればよかったんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る