二人の秘密……?
風邪もすっかり治り、僕は守家を副部長に任命した。そんな5月のある日のこと。放課後、僕は部活に行ったのだが、途中で自分の教室に忘れ物をしたことに気付き、教室へと戻った。教室の前に着き、扉を開けると驚きの光景が目に入る──なんと、守家が佐東を抱きしめていた。
「な……」
守家……?なぜ佐東を……?僕は疑問符で一杯の脳内を懸命に落ち着かせる。そして、
「し、失礼しましたぁぁぁぁっ!!!」
僕は叫びながらその場から走って逃げた。忘れ物などもはやどうでも良かった。後悔は少しだけしたがな。僕は息を切らせながら部室棟へと急いだ。
道中、僕は自分の名字と先程の状況を重ね合わせる。僕の名字と読みが同じ、フィクション界隈では数字3文字で表記されることもある「それ」の存在を知って以来、僕は自分の名字を呼ばれるのが少し苦手だ。
そ、それにしても一体何がきっかけであんな状況になったんだ……?もしや、佐東はともかく守家もそういう性指向なのか?佐東と守家は恋仲なのか?もしくは何か悩み相談でもしてたのか?部長の僕はどうすればいいんだ?今の部員構成で部内恋愛の可能性なんて、考えたこともなかったぞ?
部室に帰ってしばらくして、守家と佐東が戻ってきた。
「あー、二人とも」
「はい」
「その……部活が終わったらちょっと、話したいことがあるんだが」
二人はいかにもばつの悪そうな表情で互いに目を合わせ、了解の返事をした。
部活の終わりを迎えた後、僕たちはそのまま部室に残り、あの件について話し始める。
「二人とも、先程の件についてなんだが──」
「部長、なんか誤解してるかと思うんですけど、僕たちそういう関係じゃないですからね?」と守家が弁明する。
「っ!?そ、そうなのか」
「ええ、はい。あの時僕ら……えーと……そう!女の子のちょうどいい抱きしめ方をですね、話し合ってたんですよ!」と佐東が言う。
「そ、そうか」
僕は少し思案し、
「悩み相談なら、いつでも受け付けるからな」
「はあ。ありがとうございます」と守家が言う。
本当は詳細が気になったが、僕が介入できるのはこのくらいだろう。あとは二人に任せておこう。
その日の帰り、僕は、二人の言葉を反芻しながらトボトボ歩く。二人はああ言っている。僕も二人の言葉を信じるつもりだ。しかし……。何なんだ、この割りきれない感情は。
「これ以上考えても、どうにもならないか」
溜息をつき僕は、僅かに吹く風を受けながら、目の前にあるコンビニへと向かった。さて、今日は何を食べようか。
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