愛矢と愛弓の新学期

プロローグ

 桜が咲き誇っている。ピンクの花びらが、一枚、また一枚と散って行く。何てきれいなんだろう。

 教室の窓からその景色を眺めつつ、わたしはため息をついた。

「どうしたの、愛弓」

 声を掛けられて振り返ると、愛矢が後ろに立っていた。

「愛矢、どうしたの」

「聞きたいのはこっちなんだけど。もう、下校時刻過ぎてるよ」

 え? とわたしは辺りを見回した。

「ほんとだ。誰もいない」

「このごろおかしいよ、愛弓」

「そんなことないわよ」

 自分の机に向かうわたしを、愛矢が心配げに目で追っている。

「武居はどうしたの? 前は部活がない日もいつも一緒だったのに」

 かばんを取ろうとしていた手が止まった。

「……クラス分かれちゃったから、時間が合わなくなったのよ」

「ふうん」

 本当は、それだけじゃなかった。

「シノブ……か」

「え?」

 ドアの方へ行き掛けていた愛矢が振り返った。

「今、何か言った?」

「……クラス。みんなバラバラになっちゃって、さびしいねって言ったの」

「ああ。うん、そうだね」

 わたしは一組、愛矢は四組、武居は三組。見事にバラバラ。

 それも憂うつな原因の一つではあった。そして……。

 ――シノブ。わたしの心には、ずっとその名前が引っ掛かっていた。

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