愛矢と愛弓と二年目の夏
プロローグ
「明日から夏休みね」
学校からの帰り道、わたしは並んで歩く愛矢に声を掛けた。
「うん。この学校に来て、もうすぐ一年か」
愛矢がしみじみと言う。
「ちょうど一年前だったよね、わたしたちが出会ったのって」
「あっ、そうだったわね」
わたしもうなずき、感慨にふけった。
そうかー。あれからもう、一年が過ぎたのか。早い気もするけど、遠い昔のことのような気もする。だって、愛矢とは、何だか……。
「何だかもっとずーっと前から、一緒にいるような気がするわ」
「わたしも」
その時、後ろから追い掛けて来る足音が聞こえた。
「おーい!」
「武居?」
わたしと愛矢は声を揃え、足を止めて振り返った。
「どうしたの?」
「愛弓、足速くなったなあ。校門のとこからずっと追い掛けて来たのに、ここまで追い付かないなんて」
「大声で呼び掛ければ良かったじゃない」
「話に夢中で気が付かなかったくせに」
「で、何の用なの」
「忘れ物だよ、ほら」
武居はわたしに青い手帳を差し出した。
それを見たわたしは、ふと懐かしいような気持ちになって首をかしげた。
「……一年前の……そう、ちょうど今日、同じことがなかった? 武居がわたしを追い掛けて来て、この手帳を……」
「ああ、そういえば。ドジは相変わらずなんだな」
「ふふ。何だか不思議な感じね」
青い空に、かすかに吹き過ぎる涼しい風。さわやかな夏の空気の中で、わたしも愛矢も武居も、それぞれに去年の夏の日のことを思い返していた。
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