愛矢と愛弓のクリスマス

プロローグ

「十二月に入ったら、ほとんど授業はないよ」

 花の手入れをしながら、古藤先輩が唐突に言いました。

 十一月も終わりに近付き、日に日に寒くなっています。花たちには厳しい季節です。

 わたしは土を掘る手を休めずに、「どうして?」と尋ねました。

「二十三、二十四、二十五の三日間に渡って、全校生徒参加の演劇祭が行われるんだ」

 先輩、何だかとっても嬉しそう。

「みんなクリスマスさいって呼んでる。二十三日が各学年の一組と二組、二十四日が三組と四組、二十五日は五組と六組が、それぞれ舞台に立つんだ」 

 その三日間のために、一か月近く掛けて練習をするんだって。

「ふうん。先輩がお芝居好きだなんて知らなかった」

「誰が芝居が好きって言ったんだよ」

「だって、嬉しそうだったから」

「劇が嬉しいんじゃない、授業がつぶれるのが嬉しいんだ」

 ――確かに、その方が先輩らしいな。

「受験をする三年生は簡単な裏方だけで免除されるけどね。堂々とさぼれる時に勉強する奴の気が知れないよ」

 わたしは先輩の話に首をかしげました。

「高等部があるのに、よその高校を受験する人がいるの?」

「そりゃあね」

 先輩はまた土を掘り始めました。

「もうそろそろクリスマス祭の話が出るんじゃないかな。演目は、まあだいたい、世界名作童話か、シェイクスピアなんかが主流だけど、オリジナルをやるクラスもあるよ」

「そうなんだ。面白そうだね」

 その様子を想像しながら、わたしも土にシャベルを入れました。

 それに今年は、みんなと過ごす初めてのクリスマス。先輩と、愛弓と武居。母さんも……。父さんとも、去年まではあんまり一緒に過ごしたことなかった。みんな一緒のクリスマス。素敵な日になるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る