閉ざされた扉の中から
今日のお話は、単純におもしろいかというと、そうではないと思います。
皆様方は普段、様々な関わりや営みの中で生きているのだと思いますが、その中でも仕事というのは、人生において関わり深いものです。
今日はお仕事の話です。
決してなにかをバカにしたり、ただ単にネタにしたいというわけではないのです。
まあざっくりと言いましょう。
精神科病院で、精神保健福祉士という職種で働いています。
聞き馴染みのない職業だと思いますが、退院や調整を行う相談員です。
病院によってスタイルは様々ですが、私は直接病棟に入り込んで仕事をします。
精神科病院って、何も知らない方々からすれば、何をしでかすかわからない、怖い方々がたくさんいるのではないか、と不安を抱かれるかと思います。
けれど、何かしらの病気を抱えていること自体に、罪はないのです。
そんなとある場所の日常を、少しだけ。
まずは朝、皆様方と同じように死んだ目で出勤します(風評被害)。
閉鎖病棟とは名前が示す通り、入り口に鍵がかかって、容易に出入りができない病棟です。
カードキーでガチャリ。
初めて訪れた時は、SFの世界に迷い込んだのかと思いました。
「やっほー」
患者様に出迎えられます。統合失調症という、幻覚妄想などを呈する病気に加えて、発達障害も見受けられ、こだわりの強さがあります。
「おはようございます」
挨拶を返すと、にっこりと素直に笑って頂き、
かめはめ波を打たれます。
「……(汗)」
リアクションを返して上げられない、無力な私を許して。
本人は満足気なので、よしとします。
詰所に入り、看護さんや先生から、何かやって欲しいことがあれば、受けます。
患者様の心配事や、ご家族様への連絡事が、主となります。
「〇〇さんのお金がないので、入金してもらえない?」
わかりました連絡します。
「〇〇くんが怪我したみたいで、外科にかけるけど、ご家族様への連絡お願い」
はい。それでは、どういった状況だったか教えてください。
「〇〇さんが、訴えてやるって言ってますよ(笑)」
わかりました。
「いやわかるかい!」
こんなことも多々あります(涙目)。
病気には当然種類もあり、同じ病気にカテゴライズされても、症状の経過は様々です。
統合失調症だからみんなが妄想的ではないように、程度や病状も個性があります。
統合失調症、うつ病、双極性障害、薬物依存症、アルコール依存症、発達障害、自閉症スペクトラム、適応障害、解離性障害、認知症などなど、精神科の適応です。
双極性障害。躁うつ廟ですが、気持ちが大きくなったり上がってくる躁状態、気持ちが落ち込むうつ状態と、極端な気分の揺れ動きがあります。
訴えるとか言われる時は、大体躁状態が亢進されています。
面と向かって話を聞きにいけば、なかなかいい感じに罵詈雑言の嵐ですよ。あの時の俺の気持ちを考えたのかとか、この病院の職員はクズばかりだとか。
これが病状なんです、悲しいことに。
本人の性格的な部分を関係なしに、病状が悪い時は、ご本人様にもどうしようもないのです。
好き勝手わめきちらして気分が良さそうだとは思いません。なぜなら、その状態はご本人様にとって多大なストレスだからです。
まあ今は大分状態も落ち着きまして、普通に会話が出来ます。薬物療法にはどうしても副作用がとか、治らなんじゃ、とか不安も伴いますが、
ひどい話、病状が最高に悪い状態より、ご本人様にとって、周囲にとって、マシなのです。
どうしてもある程度やっていける範囲に収まったと先生に判断されるまでは、調整が必要なのです。
「明日面会に行きます。退院をさせたくないので、説得をしてくれませんか」といった無茶振りをいなしつつ書類を挟んだり書いたりしていると、患者様の一人が、診察室に連れられてきました。
首根っこを掴まれて。
「現行犯逮捕しました」
「何の?」
「窃盗」
その患者様は、見覚えのないタオルを頭に巻いていました。
「ほかの人のを盗んじゃったんですよ」
ああっ。
知的能力の低さや、こだわりの強さから、いけないことを理解できない方が、どうしてもいます。
ほかの方を守るために、保護室という鍵のかかる部屋に入れざるを得ないです。
まあでも、一時的なものなので、翌日には開放の指示が出ます。
で、翌日。
「……(首根っこつかまれてるー)」
またかよ!
限局的な行動の繰り返し、それが特徴とはいえ、うーむ、
もとヤクザですからね。
思ったのですが、悪の道に行ってしまう方々はただ単にアウトローな生き方が好みというわけではなく、知的な低さや能力のなさから、騙されるようにして、もしくはそういったところで拾われて、そのような道に入ってしまうのではないかと。社会の闇を感じずにはいられません。
さて、お金の話なのですが、精神科は他の科と比べ、どうしても入院が長期に渡るというケースが多々あります。
そして悲しくも仕方のないことに、家族が関わりを拒否するケースもけっこうな数に登ります。
入院患者の面会中に、離婚届を叩きつけるケースもありますからね(ガクガク)。
それで、援助がなくなった方は、生活保護を受けるケースが多いです。
医療費はかからず、食費もでます。ただし入院中なので、あまりお小遣いの部分は出ませんが、飢えて死ぬことはなくなります。
入院中に溜めたお金は、もちろんですが本人の自由です。
だから何を買ってもいいと言えばいいのですが。
「遠藤さん。〇〇さんが、ブルーレイ買いたいって言ってますけど……」
驚きました。
入院中にも関わらず、他の患者様もいる中で、ブルーレイを買いたいと。そりゃあお金はあるけれど。
まあ、お金はご本人様のものですし、ね。
「わかりました。師長や先生にも言って
阻止しましょう(必死)」
まだ私も持ってないのに!←本音じゃねーか。
ってそれはともかくとして、病棟として私物に何かあっても責任が持てないことと、1人に許可を出せば他の方も希望します「なんであいつが良くて俺はダメなんだ」と。
なので、何を許可するのかというところは、慎重に判断しなくてはなりません。
とはいえ、公に止める大義名分もないので、生活保護の担当者に伺いました。
「……まあご本人様のお金ですから、ね」
めっちゃ声が困ってました。
うん、ですよね。少なくとも止めることはできんですものね、本人のお金だし。
まあ、何があっても自己責任の名の下に、楽しんでください。
ご本人様に退院する気がないのは考えものですが……。
病気を持つ辛さや苦しみ、生き辛さは、ご本人様にしかわかりません。
私はそれを解消してあげることはできない。
私はそれを解決してあげることはできない。
あくまで必要な連絡や調整、相談を聞いてできることはするのみです。無理なことは受容するだけです。
日々自分に何ができるのかと無力感に苛まれながらも、それでも、楽しいと思う部分があるのです。
患者様が「バカヤロー」と叫び出す時に、声の長さやトーンで、「おっ今日の叫びは調子が良さそうだ」とか判断できるようになりました。
「お金をおろしましょっか」と話しかけると「お金じゃないよ愛なんだよ」と真理を説かれたりもしました。
入院費の支払いをバックれられたことも一度ではありません(これはキレました)。
車椅子を爆走させる方がいて、危ないな誰だって思ったら「うえーい」と言いながら患者様にデモンストレーションをしている看護さんだったこともあります。
副院長先生が失墜するという、ドラマみたいな出来事もありました。
エキセントリックな出来事がありますが、すべてはご本人様のためです。
本当に大変な状況にあるのは、当事者の方です。
別に自分がいい人だなんて思いません。
よくなる患者様の笑顔のために働いたことなんて、正直一度たりともありません。
自分がやりたいから、何をしているのかよくわからない支援をしていきたいから、やっているだけです。
病気を抱えていらっしゃる方が、しかも精神科の治療を必要としているからって、必要以上に恐れたりすることはないのです。
分かり合えるかどうかは別として、同じ人間です。
無理に優しくしすぎなくてもいい、ただ認めればいいのだと思います。
そんなこんなで、これ以上書くかはわからないですが、仕事の話でした。
「遠藤さーん。来週は面談が3つあって、〇〇さんのご家族様がお話したいって。あと〇〇さんと〇〇くんが呼んでたよ。インフルエンザ注射を打つか、ご家族への確認もお願い。そういえば、また入院来るらしいよ。深夜3時くらいに(etc,etc)」
そんな絶望のスケジュールを聞きながら、持ちたくもないピッチがなります。ひどい時は3分おきくらいに。
うん。
ちょっと辞めたい(真剣)。
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