アクアアリア

 素敵なことを書けないのは、きっと素敵成分が足りないせいです。


 日々の仕事に忙殺され、やらなければいけないことや経済活動で、人間性をすり減らしている、そんな感じがするのです。


 ああ、普段の私であれば、キラキラオーラに出るくらい素敵に溢れているというのに(グーパンのチャンスですよ)。


 となりますと、日々消費されていく素敵成分は、どのようにして補充すれば良いのか。


 私には、一つだけ心当たりがありました。


 素敵な物語に触れれば、きっと消費された素敵要素も戻ってくるだろう。いつもどおり、挨拶はごきげんようと言える私に戻れるかもしれません。


 素敵で素晴らしい物語は多々ありますが、一際輝きを持ち続けているものは、漫画 ARIAです。


 火星に移住した人類は、地球のヴェネチィアを模した、ネオヴェネチィアを作りました。


 本家同様、水と素敵に彩られた街で、水先案内人ウンディーネを目指す少女たちの、物語です。


 ほんのささやかな素敵が丁寧に切り取られた物語でして、私は大好きでした。


 自宅にて、さっそく捜索を開始致しました。


 自室の本棚なし、親の本棚なし、妹の本棚なし、無造作に置かれた本棚なし、あれ?


 そう思ったところで、ふと気付きます。家を出て一人暮らしを始めた弟も、この漫画が好きだったということを。


 ええ、おそらく持っていかれましたね。


 こればかりは仕方ありません。


 午後に予約している美容院に行った帰りに、ブックオフにでも寄ろうそうしよう。


 方針を決めて、あっという間に午後になり、いつも通り愛車で向かうことにしました。


 愛車はいつも通りの変わらない笑顔で、鳥のフンに塗れていました。


 ええ、仕方のないことです。そりゃあ鳥であれ、用をたすことは仕方ありません。人間だって、行うのですから、生理現象にいちいち腹をたてることも、時間の無駄でしょう。


 ちょっと電話します。


 ……もしもし、母上?


 今夜の夕飯、焼き鳥にして頂けないでしょうか?(殺意)


 帰ったら洗車するという項目が追加され、美容院に向かいました。


 まあでも、やってやろうじゃありませんか。素敵ハンターはくじけない。


 私が勝手に姉御と呼んでいる人物に、髪を切ってもらいます。もう十年来の店員と客という関係なので、気兼ねなく会話が弾みます。


 話題は、共通の知り合いが結婚をしないと宣言しているということ。そやつもなかなか難儀なものでして、本人はバンドをしており、ファンからは様付けで呼ばれているくせに、なぜか女性関係は豪放磊落ではないのです。


 まあでも、そういうタイプって惚れたら絶対すぐ結婚するよねと姉御が締めて、私も同意しました。


「それで、兄者(私です)は彼女作らんの?」


 ふう、やれやれ。私は絵に描いたような真面目人間なので、結婚するまでは手も握らないと決めているような堅物人間です。軽々しく彼女を作るという行為に、興じることは出来ないのです。


 それでも、こんなことを言ったところで、なかなか理解を得られるものではありません。少し軽めにいきますか。


「ははっ何を仰いますやら。作らないんじゃなくて、作れないんですよ(真顔)」


 うっかり本音が出ました。


 世の中には欲しくても彼女が出来ない人間はいるという残酷な真実を、あっさりと暴露してしまいました。


 新婚旅行から最近帰っていらっしゃた姉御は、笑いながら言うのだった。


「いやいや、あんたは究極一人でも生きていけるでしょ? 作らなくても別に大丈夫なタイプじゃん」


 ……。


 本質をつくな!(図星)


「あんたの弟、今の彼女に、他の男の子に遊びに来いって誘われたから、弟くん来てって言われて、行ったらしいけど、どう思う?」


「俺なら絶対行かないです」


 姉御、鬼の首をとったような顔をしていました。


 なるほど、これじゃ彼女出来ねえわ(納得)。


 素敵を探すどころか、髪の毛と心をすり減らし、次の目的地ブックオフに向かうことにしました。


 瞳の住人が車内BGMとして流れ、気分は上昇します。


 ふと、珍しくマイナーな道で渋滞していたため、ルートを変更し、この地域に二つしかない大型の主要道路に出ます。


 流れ続ける瞳の住人が2週したところで(12分)、全く車は動きません。普段ならブックオフまで10分程度の道のりなはずなのですが。


 気になって調べると、主要道路の片方で、大規模な事故が起きてました。しかもかなり近くで。


 そのせいで、事故現場を抜けてから主要道路に出るために、迂回を試みた車が大量に押し寄せていたのです。


 素敵成分を補充させないぞと言った、闇の組織の陰謀を感じました(被害妄想)。


 渋滞は仕方なくても、やはりまどろっこしいですね。


 こんな時、私はかめはめ波打てればなあとよく妄想します。


 受けてたつぞと意気込みまして、結果を言えば私の勝利。四十分かけてブックオフに着きました(敗北じゃね?)。


 学生を卒業してから、ブックオフで本を買うことは控えていました。


 新品がいいという気持ちも当然ありますが、ほら、中古を買うと、作者様に印税が入らないじゃないですか(金の事情)。


 十分ほど店内を散策し、無事にAQUA全2巻とARIA全12巻と、借りパクされて無くなっていたネコソギラジカル上中下巻と少女不十分を購入しました(増えてる)。


 帰りは、渋滞とは逆方向だったため、とてもスイスイと帰宅することができました。


 反対車線の渋滞を眺め見ながら、「辛いとは思うけど、皆様がんばって』と熱いエールを送りました。この心の余裕こそが、必要なのです。←この人さっきキレてました。


 帰宅し、素敵タイムだ、とはいかず、まずは洗車タイムです。


 鳥のフンがついていなくとも、車というのは意外と汚れているものです。ガレージも買えないどころか、天井すらないところに駐車をせざるを得ない貧乏人には、洗うのも自ら行うしかないのです。


 いやいや、洗い流すという行為も、そう悪いものではないです。


 目に見える黒じみが、シャワーホースとクロスを滑らせるたびに、輝きを取り戻していく様を見ると、気分はまるで魔法使いです。


 日常に潜む魔法とは、実はこんな爽やかなもわぷっ(風に飛ばされる水)。


 掃除をするということは、自分の行なった(ぴっ)ことの成果(ぴっ)が目に見えて出るもの(ぴっ)ですから、達成感をえ(ぴっ)


 うるせえ!


 ドアノブに手をかざせば鍵が開くタイプなので、その付近を拭いていると、いやでも鍵が勝手に開け閉めされます。


 やれやれ。車を洗うことも、どうにも骨が折れるわぷっ(再び飛ばされる、水)。


 そんなこんなで、どうにか無事に洗車を終えました(びしょ濡れ)。


 もうすでに心が砕けそうでしたが、本日のメインディッシュはこれからです。


 もう五時を回っていましたが。


 ただ、せっかくの心地よい気分に浸るチャンスなのです。できるだけシチュエーションを整えて、楽しいことに囲まれながら、 場の素敵度を上げるのです。


 妖精とか女体とか金とかはさすがに用意できないため、自分の身の丈にあった幸せを考えました。


 その結果。


 ビールとからあげくんを片手に、河原で漫画を読むアラサーの姿が完成しました。


 な、なんで?(ここが変だよこの人は)


 だって……だって!(言い訳不能)


 とはいえ、やってしまったものは仕方ありません。


 かつては埋没し、生まれ変わったら行ってみたいとすら焦がれた世界に、思いを馳せます。


 夜光鈴、雪虫、左手のささやかな手助けなど、小さくも素敵の宿ったエピソードに、身も心も重ねます。


 とめどなく流れる水音は、心を落ち着け、世界を燃やし始めた夕焼けは、より世界を印象的に染め上げます。


 心は溺れるほどに、世界に沈んでいくのを感じました。


 素敵に素敵を重ね、心の感じるままに受け止めた結果。


「ううっ……ぐすっ……」


 酒飲んで漫画読みながら河原で涙ぐむモテないアラサーは、とても犯罪的でした。


 だって……だって


 だって!(言い訳不能)


 違うんです(なにが)。


 別にずっと泣いていたわけじゃないんですよ。簡単にではありますが、AQUA全2巻、ARIA全12巻を読んでいる時の様子を、ダイジェストでお送りすれば、わかるはずです。


 AQUA1巻→2小泣

 2巻→小泣


 ARIA1巻→小泣

 3巻→小泣

 4巻→小泣

 5巻→1中泣2小泣

 6巻→小泣


 ……。


 ごめんなさいほぼ泣いてました。


 特に11巻から12巻流れは、何度も読んでいるにも関わらず、いや読んでいるからこそ、涙腺はもう反射的に活動しだします。


 もうなんか勢いで泣いているだけです。


 ただ、悲しくて泣く、辛いから泣くというよりは、素敵なものの眩しさや優しさに撫でられ、ふと涙が溢れる。そのような素敵な体験なのです。


 全巻を読み終えた時、胸に宿った温かい気持ちは、きっとかけがえのないものです。


 いわば今の私は素敵の権化。素敵成分より集めた、素敵将軍とも呼べるのではないでしょうか。


 漫画を読んでいる最中、見つけたのです。


 経過と共に変わりゆく世界の中の、一瞬の色を。


 真っ赤な空、真蒼の空などはよく見慣れているものではありますが、


 濃い闇を孕み始めた中に、一際わずかな鮮やかさを、発見したのです。


 白い雲囲むように染められていたのは、細い糸のような、浅紫色の空を。


 赤でもなく青でもなく、それらがまざったわけでもない。


 光の長短決まるスペクトラムの中にある、その瞬間しか見えない鮮やかさは、確かに胸を打ちました。


 そんな物語に似た、一瞬の輝きを見つけることが、きっとこの残酷でどうしようもない世界を楽しむための、小さなコツのようなものなのです。


 世の中わからないことだらけなことが、救いになります。


 きっともっと、私の知らない素敵で、溢れているはずですから。


 とても充実した気持ちになり、色々な出来事のなった休日を終えた時、明日もがんばろうと、自然と言葉がでました。


 皆様も、自分だけが知っている小さな素敵を探し出していけたら、これ以上の幸福はないはずです。


 そして、みんなでわけあい、楽しみの輪を広げることが、きっと平和への道のりとなっていくのですから。






 今日は綺麗に締めれたんじゃないですかね?(素敵成分激減)


 とはいえ、やはりARIAは素晴らしかったです。


 素敵成分を目一杯供給できた私に、不可能はないでしょう。


 きっと、遠藤流ハッピーエンドの物語を、紡げるようになっているはずです。


 ただ転ばぬ先の杖。念には念を入れて、ハッピーターンを摂取して、さらなるハッピーな要素で満たしましょう。


 食べます。


 ぱりっぱり。


 ん?


 湿気っとるやん!(素敵将軍? 彼は死にました)


 結局はいつも通りに戻った感は否めませんが、これだけは言っておきましょう。




 パーフェクトハッピーエンドは無理でーす(ふりだし)。


 皆様も、素敵を見つけていけたら、とても良いですね(信用度ゼロ)。


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