特殊捜査班『エヌ』

「シゲさんこれ見て下さいよ!」

 若い刑事がしきばんだ様子でA4のコピー用紙をデスクの上に置いた。監視カメラの映像をプリントアウトしたものだ。白い服を着たスキンヘッドの男がグリーラ容疑者と面会している様子だった。

「配達人の野郎、もうぎつけやがった」

「そうか。で、外国人せつ盗団はどうだ?」

「そうかって……それで終わりすか?」

やつの件はエヌに任せとけ。お前は自分の仕事をしろ」

「あのジジイが釈放にでもなったら無駄骨じゃないすか!」

「ヤス。一課の連中がエヌを利用してるのは知ってるな?」

「はい」

「グリーラ一味が武装強盗団だったらどうする?」

「協力要請もありうる、って事ですか」

 シゲさんこと片山重幸警部は黙ってうなずいた。ヤスと呼ばれた若い刑事は背中一面で不満を表現しながら退出した。


 凶悪犯罪の時効が廃止になって以降、未解決事件の再捜査に特化した組織『国家公安委員会時空保安庁』が秘密に編成された。片山のような古参の警官はべつと嫌悪を込めて『エヌ』と呼んでいる。

 再捜査で最も厄介なのは事件関係者が居なくなってしまうことだ。それは分かる。だからといってタイムマシンというのはどうなんだ?

 予算獲得。まあそうだろう。それはまだ理解できる。分からんのはこいつらだ。片山はプリントアウトされたスキンヘッドの男を指ではじいた。パンッと大きな音が響いた。

 何が『ポストマン』だ!

 モグリのタイムトラベラー。こんなさん臭い奴らを、取り締まるどころか捜査に協力させるとは何事だ。片山警部は頬杖をついてスキンヘッドの男を眺めた。こいつ一体何を請け負ったんだ?

 仮にこの禿頭ハゲが過去なり未来なりに行けるとしよう。行けるはずはないが百歩譲って何を頼む? 過去の自分に捕まることを教える……いや、それはない。グリーラはわざと捕まった。今のところ奴の狙い通りに事が運んでいるはずだ。外国人せつ盗団の幹部は何を心配する?

 意図しない未来。ムショから出られずじまいだ。さあどうする? 自分しか知らない事……遺言……隠し金の在処ありか。教えるのは身内だろう。奴の親族を張っておけば尻尾がつかめるんじゃないか。エヌに連絡してみるか。

 片山警部は組織図を見た。空島……あいつか。誰だかの祝賀会でてっきり酔っ払って寝てると思ったら参加者全員覚えてやがった。できれば絡みたくない男だ。何を考えてるのか見当がつかない。もう一人は……おいおい新戸部って。光一だと? 委員長さまの御曹司おんぞうしじゃねぇか!

 やめだやめ。関わったらろくな事にならん。片山は組織図を閉じると目下の件に考えを戻した。年末まであと一週間。外国人せつ盗団、あるいは強盗団はいったい何を狙っているのか。でかいヤマには違いない。決行日は? 恐らく大晦日おおみそか。ドサクサにまぎれて事を起こそうって狙いだろう。


 そうはさせるか。この国の年明けは俺たちが守る。片山警部は机の上に置かれた紙をクシャクシャに丸めるとゴミ箱に放り込んだ。

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