祖父の手紙

『ミコワイよ。愛しい私の孫よ。元気にしているか?

私は今、お前が六歳の年の終わりに、出張先でめ事に巻き込まれて足止めを食っている。どうやらもうお前とは会えそうもない。留置場に入れられてしまったのだ。


時制がおかしいのが気になるが、初めての事なのでどう書いたら良いのか戸惑とまどっている。読みにくいと思うが我慢して最後まで読んでおくれ。とても大事なことを書いたから。


今朝早く男が留置場に私を訪ねて来て、何か届け物があれば承りますと言った。最初は警察の関係者かと思ったが違った。自分はプロの配達人だと言い、名前を聞くと「ジャックで結構です」と答えおった。


ふざけとるだろう?


名無しの配達人は実に変わったセールスをし始めた。自分はメッセージを届けられると言うのだ。


私は最初、意味を取り違えた。誰でも勘違いするだろう。相手がシャワーを浴びていようが手紙を押し付けるのか、と聞くとジャックは「そうではなくという意味です」と答え、さらに「ただし現在を除きます」と付け加えた。


お前だったら、いや、大抵の人間はそこで帰ってもらうだろう。私はそうしなかった。後で詳しく書くが、私もこの男と似た仕事をしているのだ。


ジャックは現在以外の時代への配達を請け負う。だがそのせいで話の筋が変わり過ぎると政府の何とかいう組織によって元に戻される。出来事が変わる事を知っていて配達したら罪に問われる。今の状況で例えるとこうだ。


私が過去の自分に『出張すると捕まるぞ』と書いて配達を頼んだとする。私は出張を止めるだろう。つまり事実は変わってしまう。ジャックは知っとるから逮捕され、配達物は没収。何もなかったことになる。こりゃ全くの無意味だ。


ならば愛する者に私の身に何が起きたか知らせたい。生前の両親、私が死んだ後の妻、息子のマロース、そして可愛いミコワイ。お前たちのうちの誰かに……』


 ミコワイはそこまで読むと耐え切れなくなって書類を放り出した。


 なんてことだ。じいちゃんは気が変になっていたんだ。

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