過去からの配達

 青年がリビングの中央に積み上げたプレゼントの山を幸せそうに眺めているとインターホンが鳴った。モニタには黒帽子に白い制服姿の男が映っていた。

「お届け物です。サインを頂きたいのですが」

 今度は誰のプレゼントだろう? 青年はエントランスのドアロックを解除すると書斎に入ってペンを用意し、それで頬を突っつきながら玄関で配達人を待ち構えた。玄関のベルが鳴った瞬間に青年はドアを開けた。

「ミコワイさんですね」

 手渡されたのは書類封筒のようで、緑色の包装紙に赤と金のリボンがかけてあった。パンフレットか。カード会社の優待サービスかなんかだろう。青年は不満気に下唇を突き出しながら配達人に手渡された受け取り伝票にサインし「ごくろうさま」と言って返した。

 配達人は紙片を受け取ると帽子のつばに軽く手を触れて足早に立ち去った。ミコワイは後ろ手にドアを閉めてリビングに戻り、パンフレットらしき贈り物をソファーの上に放り投げると冷蔵庫からシャンパンを取り出してグラスに注いだ。

 単身赴任で遠い国に来てもこうしてプレゼントを贈ってくれる。友だちというのはいいものだ。いつ開けようか。そうだ。ネットで皆の顔を見ながら……。今夜のプランを考えていたミコワイはふと妙なことに気が付いた。


 サインの必要なパンフレットなんかあるか?


 ソファーに駆け寄って封筒を見た。なにも書いていない。裏表とも確かめた。宛名も切手もない。なんでサインがいるんだ? ミコワイは乱暴に包装をむしり取った。中には書類ファイルが一冊入っていた。

 ファイルを開いて中の紙を取り出した。珍しくもない事務用コピー用紙だ。しかしそこに書かれた、まるでカリグラフィーのような美しい字を見たミコワイは「えっ?」と声を上げると大急ぎで書斎に駆け込んだ。デスクの一番下の引き出しから木箱を取り出すと、ひっくり返して中身を全てデスクの上に出し、古い絵葉書はがきを探しだすと書類の上に置いて書かれた文字を見比べた。


 間違いない。じいちゃんの字だ。


 だがいったいどうして? 二十年も前に行方不明になったのに。ミコワイは書類を机の上に置くと、キッチンに行って顔を洗った。酔っ払ってる場合じゃないぞ。ミコワイはタオルで顔を拭くと書斎に戻って手紙を読み始めた。

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