第1話 新しい道

 現在、僕、幽零失は走っています。入学式は9時30分より始まります。それに対し現在時刻は9時28分。絶望的なこの時間、走っても歩いても変わらないような気はしますが、それでも走った方がいくらかは早く着くでしょう。しかし、この学校、コミュニケーションの場としては広すぎる気がします。昔はよく東京ドーム何個分、とかで表されてたらしいですが、一個分ぐらいはあるんではないでしょうか。というか、あの数え方って結構分かりにくくないですか?東京ドームに行った事がない人にしてみれば理解しがたいものだったに違いありません。

「流石に始まってるでしょうね・・・」

「そうだろうな」

 そうでしょうそうでしょう、隣の人もそう思ってくれたらしいです・・・、ん?

「隣の人!?」

「お前も間違えて教室に着たタイプの人間か、お互い大変だな。」

「驚くくらいにマイペース!」

 驚きました、驚愕です、ちなみにこの学校は共学です。どうでもいい情報です。

「おはよう、俺の名前は語部かたりべ木暮きぐれ、よろしくな」

「いや、そんな昔のRPGみたいな挨拶されても・・・、幽零失です。よろしく。」

 これがコミュニケーションなら、僕はこの高校を辞めてやりたいです。

「でも、いいのか?ここって体育館と正反対だけど。」

「コミュニケーション万歳!ありがとう語部くん!」

さて、走りなおしましょう。


一分後、体育館前。

「いい?同時にいっせーのでだからね?で、の時に開けるんだよ?」

「オウ、ゼッタイニイッショニアケヨウナ。」

「片言!?怪しいというかわざとらしいよ!」

話し込んでいるのは僕と語部くん。そりゃあそうなんでしょうが、ほんとに人っ子一人いません。ふと、ここで語部くんを見てみますと、結構ものすごい格好でした。銀髪のショートカット、着ているパーカーもズボンも銀、複数付けてる指輪もブレスレットも銀、銀です。銀の語部くんです。

「なんだそりゃ。さも金の俺がいるみたいな言い方だな。」

おっと、口に出てしまっていたみたいです。それはさておき、そろそろ行かないと本気で遅れてしまいます。

「じゃ、いくよ?いっせーのーでっ!」

案の定、語部くんは開けませんでした。しかし、怒る気にはなれません。だって、扉を開けた風景は、黒い防弾ジャケットを着て、全校生徒に銃を向ける、たくさんの黒服さんだったんですから。黒服さんはしゃべります。

「おぉ、すまんな、入学式は無くなったんよ。」

思いのほか、若い声でした。

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