最前線

 それはいつも唐突だ。

 気まぐれに現れて人々の生活を荒らし、何事もなかったように去っていく。人に叡智を与え、土を肥やし、大地を割り、命を奪う。遥か古代から連綿と続く逃れようのない事象。

 人は、抗うことのできないそれを災害と呼び。

 時に神と呼ぶ。

 準災害と呼称したときから、人はもう諦めていたのかもしれない。

 彼らの傍若を止める手立てはないのだと。

 こうべを垂れ、祈るしかないのだと。

 供物を差し出し、赦しを乞うしかないのだと。

 黒の部隊は一面を覆い尽くしていた。

 百は下らないであろう群れ。それが津波のように押し寄せてくるのだ。ゆっくりと、聖者の行進の如き神々しさで。

 小島は全力で後じさる。その勢いでヴィクターに刺さった刀を引き抜く。

 訓練用に使われている甲式イブでは、一撃を外した時点で勝率は格段に落ちる。後退しつつ戦況から離脱、装備を乙式に換装しなければ。

 それを許してくれる相手であれば、だが。

 女が歩を進める。数瞬で小島の眼前に黒い塊が迫り来る。

 刀で受け流しつつ、返す刀で一閃。切っ先は女をかすることもない。

「神に祈る間をあげる」

 女が嘯く。

「せめて般若心経でも唱えるよ」

 元より逃げ場など有りはしない。ならば、守るべきものを背に、戦うしかないのだ。

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