プロローグ 2

 荒い呼吸音。

 それと共鳴するように、強化外骨格が異音とともに疲労したような低い唸りを発している。モニターの中でAIが、随分前から警告を繰り返している。

『活動停止まで、あと一分。破損箇所多数。二七の動作パターンを遂行できません』

「うるさい、関係ない」

 カズキはそれを一喝し、黙らす。

 どの道あとひと結びで生死は決するのだ。走り、殴ることができれば問題はない。

 幸い、戦闘に支障のある不可動作は殆どなかった。左のハイキックをかますときに、大分無理な体勢を取らなければならないくらい。十分だ。

 相対するは黒の騎士。

 異形のフルプレート。

 身の丈三メートル以上はあるだろうか。カズキが騎乗するイブと同程度の体躯。それが三十メートルほど間をとって、互いを睥睨している。

『活動停止まで後四十秒』

 カズキは蹴り足に力を込める。腰を落とし、強襲の体制に入る。

「––––!」

 唐突に、視界が黒に染まる。

 咄嗟に首を左に捻る。

 その勢いを利用して、半身も左に流す。

 鋭い黒のランスが横切る。

 遅れて空気を切り裂く音。それから暴風が機体を襲った。

 右肩部をわずかに抉られる。

 人工筋肉が切れる。運動能力が落ちた、とAIが報告している。

 構わず左腕を振り切る。

 黒騎士は今の突撃で運動エネルギーを使い果たし、速度が落ちている。片脚も浮いたまま。

 フック気味に放たれた、ボディを穿つ渾身。

 騎士の横っ腹に一撃が突き刺さる。

 バランスを崩し、横にくの字を描きながら吹き飛んでいく。

 この程度で殺せる相手ならば苦労はない。

 間髪入れずに追撃に走る。

 瞬間、黒い刃が閃く。

「––––っ!?」

 激しい揺れがカズキを襲う。

 爆発のような衝撃。頭から血が出て、頰を伝うのを感じる。

 左腕破損。

 完全に捥がれた。

 きりもみ状に回転する機体を抑え、どうにか片膝を立てる。

 再び相対する二つ。

『活動停止まで後三十秒』

 無慈悲なカウントダウン。

 ––––殺す。

 こいつだけは、絶対に殺す。

 でなければ、俺に、世界に明日はやってこない。


 殺さなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る