お茶会

 女王様のお誘いで、私はローズガーデンに参りました。香り高い真っ赤な薔薇に囲まれ、私はとても幸せな気分。

 招待された乙女団のメンバーは殆ど集まりました。気分屋の歌姫さんを除いて。

 女王が奥のテラスでお茶を飲んでおられるので、挨拶がてらそちらに向かいます。

「お姉さま、お久しゅうございます。一段とお美しくなられましたわ」

「ありがとう、舞姫や」

 恭しく礼をし、淑女らしく笑顔を絶やさない。フリルを翻す。

 さあ、美味しいお菓子はどこかしら?

「お菓子ならここにあるじゃない」

「あら、私としたことが、見落としてしまいました」

 うふふ、とつい目を合わせて笑ってしまいました。私は昔からそそっかしいところがあるものですから、最近は気を付けていたのですけど。

「では、ザッハトルテから」

 苦味と甘さのバランスが良く、口の中でトロけます。滑らかな舌触りに、私のフォークが止まりません。

「あら、はしたない」

 女王様にたしなめられ、少し赤くなってしまいます。

 でも美味しいものは仕方がないのです。

 私あまり美食家ではありませんので詳しく分かりませんが、さぞ名のあるパティシエの作品なのでしょう。

「やはりパティシエは良い。甘い物を食べているからか、本人からも強い甘みを感じることができるわ」

 やっぱり有名パティシエだったのですね。

 ルビーのように赤いザッハトルテ。これは要チェックですわ。

 給仕さんからお茶をいただいて、ふうふうと息を吹きかけます。猫舌なのが悩みです。

 ロイヤルミルクティならぬロイヤルブラッドティ。最近のお気に入り。

 最初は鉄の匂いが強すぎて茶葉を殺してしまっている、と思っていたのですが、飲めば飲むほどこの独特の癖にハマってしまいました。

「あら、そろそら時間だわ。皆さん、いらっしゃって」

 招待されたのは五人。

舞姫プリマ

「はい、居りますわ」

闘姫アテネ

「うす」

美姫ビューティ

「ここに」

大姫スカジ

「…………」

「これ、返事をしなさい大姫、女王の御前ですよ?」

「いいのよ、舞姫。ところで、歌姫ディーバさんは今日もいないのね」

「奴は気まぐれですので、ここには来ないかと」

「そうなの美姫? 残念ね」

「でも、攻勢かけるって言ってましたわ。私の地区で借りを返したい奴が居るからと」

「……そうでしたか。まぁ、いいでしょう。作戦指揮の裁量は各々に任せてありますから」

 四人の後塵を拝す無数の影。黒い鎧を纏い腐臭を垂れ流す異形のモノたち。その数、数百は下らないだろう。

「人間どもに、どちらが家畜なのか分からせてやる必要がありますから。軍拡は最終段階に入りました。後は好きなようにおやりなさい」

 好きなように。

 女王様の御言葉に思わず舌舐めずりをしてしまいます。はしたないと分かっているのですけれど、興奮してしまいます。あの血湧き肉躍る光景が目の前で見られると思うと、もう……。

 あゝ、素晴らしい!

「皆、各々の役割をゆめゆめ忘れなきよう」

 いけない、いけない。

 また我を忘れるところでした。

 この間畑で暴れてしまった時には、大量の作物を駄目にしてしまいましたから。あの時は女王様の寛大な御心でお許しを頂きましたが、あんな失態はもう二度と演じられません。

 全ては決戦の時のために。

「では、御機嫌よう」

 女王様が煙のように消える。飲みかけのティーカップだけが、彼女がそこに存在していた証明をしていた。

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