夢を見ている。

 この世界がどうして夢だと分かったのか。それは、もう存在していない人間が生きているから。それはもうあり得ない光景だから。

 彼は殺された。

 腹を突き破られ。

 惨たらしく。

 奴らの餌食になり。

 しかし尊厳だけは失わなかった。

 誰かを護るという矜持。

 命を賭してでも通すべき意地。

 夢を見ている。

 彼が笑っている。

 この世界では怪物なんて居なくて、平和な世界。

 誰もが笑っていられる世界。

「どうしてお前が死ななかったんだ?」

 彼が問う。

 代われるものならば代わってやりたい。この命で彼が蘇るのならば、喜んで捧げるだろう。

 でもそれは叶わない。

 夢を見ている。

 ならばせめてこの命を燃やす。

 それだけが、唯一無二残された贖罪だから。

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