小早川 明 (弐)
明の屋敷の離れには、ちいさな道場が併設されていた。彼は胴着に着替え、壁に掛けられていた木刀を手にし、伊吹に向かって構えをとる。
「構えて」眼鏡の奥の瞳は伊吹をじっ、と見つめている。
「え、でも……」
「これは大事なことなんだ。君の実力を知ることがね」
「うぅ、怪我しても知らないんだからね!」伊吹は二本の刀を構えるが、どこか心もとなく見える。肩が震えているのが、明の目にもはっきりと分かった。
「いくぞっ」声と同時に、明は勢いよく飛び出し、素早い突きを繰り出す。伊吹の鼻先で木刀の切っ先は止まった。
「どうしたんだい?」
「ひっ、ご、ごめんなさい!」伊吹はその場に崩れ落ち、ボロボロと泣き出した。
「え、泣いちゃったよ……」
明は困ったというように、頭をかいてみせ、伊吹の前に腰をおろした。
「伊吹、悪いことは言わない。元の世界に帰れ」
「あ、い、いや……」伊吹は必死に首を振った。
「次は死ぬぞ」優しい口調で明はそう言うと、伊吹の肩を抱いた。
「わたし、帰れない。勝たないと、帰れないんだ」
「まあ、そうだろうね」
「明、私、弱くて頼りないけど、強くなるから……、お願い。一緒に戦って?」
伊吹は明を見つめたが、彼は視線を剃らした。彼は困惑していた。話が違う。異世界から来る武士たちは、この世界の者と強さの次元が違うのだと聞いていたのだが……
明は再び頭を掻いて、困った様子で伊吹を見た。
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