病夢とあんぱん その27
10分ほどして、僕は
それより、喉が渇いた。
水がほしい。
残念ながらここには、
(事無の奴は、元気だろうか・・・?)
いや、元気であろうがなかろうが、僕が
なんなら、
(警察が僕を見つけ出してくれる可能性は、どれくらいあるんだろう?)
ふと考えたが、すぐに考えるのをやめた。
恐らく、限りなく低い可能性なのだろう。
『
「おや、
ホールに出ると、テーブルで本を読んでいたらしい
「ええ。大丈夫ですよ。
キッチンの水道で水を汲み、沖さんの正面の椅子に座る。
うん。水、美味い。
「あの子が、教えてくれたんですか?『
と、少し驚いた表情をする、沖さん。
やはり、彼女が自身の『病』のことを話すのは、珍しいことなのだろうか?
「教えてくれたというか、聞き出してしまったというか・・・あの子には悪いことをしてしまったかもしれません」
本音半分、嘘半分で僕は答える。正直に言ってしまえば、「聞けて良かった」という気持ちの方が大きいかもしれない。
「莉々ちゃんは、どうしてここにいるんです?あんな役に立ちそうな『病』なら、不自由な生活に追い込まれるようなこともない気がしますけど・・・」
「役に立つからこそ、だと思いますよ。ちょうど一年前くらいに・・・彼女は家を出たそうです」
家出?
小学生の身で、か?
「『お父さんに
事情も分からない子どもを、保護しているんですか?と聞こうとして、これは
誰でも助ける、だったっけ。
まあ、発言から、大体の察しはついてしまうが。
虐め。暴力。虐待。
家庭崩壊。
そういうことなのだろう。
「何にせよ、彼女がいて良かったですよ。本当に刺されたのかどうか疑問に思うくらい、傷も完治していますし」
「帰ろうとしたところで襲われた、と
僕は話した。
カッターナイフで刺されたこと、
その男は、まだ生きているということを。
沖さんに伝えた。
「粒槍伝治・・・聞いたことがない名前ですね・・・。しかし、これで彼らの組織を放っておくことは、できなくなりましたね。またしても優くんが狙われた、となると・・・・」
「粒槍の組織に対して、何か手を打つ、ということですか?」
「手を打つ。確かに、そういうことになりますね。組織を明らかにし、優くんを狙わないように交渉する必要があるでしょう」
交渉、か。
自分たちが生き残るためには、他人の命を脅おびやかすことすら
かなり難航しそうだ。
『病』のことを口外する可能性のある一般人を生かしておくことに、彼らが賛同してくれるとは、
「ちなみに、その頃、
「彼は彼で戦っていたそうです。例の狙撃手を、止めていてくれたそうですよ。戦いを終え、駐車場に君が帰ってきていないことを確認した後、連絡をしてくれたのも彼です」
なるほど。狙撃手は、氷田織さんが止めていてくれたのか。
その後、氷田織さんが、狙撃手をどうしたのかは・・・いや、考えるのはやめておこう
「私が助けに行きたかったのですが・・・莉々ちゃんと
そういえば気を失う直前、莉々ちゃんと
それなら、氷田織さんには感謝しなければならない・・・のだが。
正直、今回の件で、氷田織さんに対する警戒は逆に強くなってしまっていた。
根拠は、ある。
この外出は、突発的なものだった。前から計画立てしていたわけではないし、当日になって急に僕が言い出したことだ。
つまり、情報の漏れる余地がない。それなら、彼ら、つまり粒槍らは、どうやって僕らの外出を知ったのだろう?どうやって、あんなにピンポイントに僕らを狙ってこれた?
基本的に知っていたのは、僕、沖さん、氷田織さんの三人だ。
僕からは、情報の漏れようがない。そもそも組織のことなんて知らないし、わざわざ情報を知らせて殺されようとなんて思わない。
どれだけ手の込んだ自殺なんだ、という話だ。
沖さんを疑うこともできるが・・・それならば、氷田織さんを疑った方が
現場に出ることが多い氷田織さんなら、粒槍らの組織のことを既に知っていてもおかしくはないだろうし、買い物中に僕の目を盗んで情報を伝えることも出来るだろう。
いや、それなら、なぜ狙撃手と戦ったのかという疑問は残るのだが・・・。案外、それも打ち合わせしていたのだろうか?僕を殺すための
考えすぎ、か?
この短い期間で何度も命を狙われ、自意識過剰になっているのだろうか。
しかし、頭の隅っこで、初めて出会ったときの氷田織さんの言葉が響いた。
「もしかすると、殺しに来たのかも」。
氷田織畔。
彼は、本当に僕を殺すつもりなのだろうか?
と、氷田織さんへの疑いがどんどん濃くなってきたころで、プルルル・・・・と事務所の固定電話が鳴った。
「失礼」と、沖さんが事務所の方へ向かう。
こんな深夜に電話してくるなんて、一体、どんな要件だろう。長い話になりそうだ、と思ったが、予想に反して沖さんはすぐに戻ってきた。
「優くん、厄介なことになりました」
と、普段はあまり見ない、険しい顔で沖さんは告げた。
その恐ろしい要件を、教えてくれた。
『本日、
挨拶もなく、死刑宣告だけを残し。
電話は切れたらしい。
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