人の道
鉄窓学園についた時雨坂シュウと姫川アリサが最初にしたことは、生徒会室で高槻ナギサと合流することだった。いや、生徒会室に入ったのは、シュウ一人。
ずっと付き添ってもらう格好悪さを少しでも拭いたいとくだらない意地を張って。
そういう意地を張る子供っぽさに苦笑されて。
「ナギサちゃん、俺だ。入るぜ」
答えを待たずに、シュウは生徒会室のドアを開けた。
「朝からここに来るなんて珍しいわね。何かあったの?」
「ああ、ダンナのことで、ちょっとな」
既に生徒会室にいたナギサの問いに、シュウはいささか言葉を濁した。
シュウにとっては友人で、元恋敵で、弟のようなものだが、現状では、一ノ瀬アザトという人間についての特務室の認識は『未知数』以外の何物でもないから。
「ああ、そのことね」
異形に次いで警戒すべき未知数の存在について、息せき切って報告しに来た部下への態度としては落ち着きすぎているナギサの様子に、シュウは違和感を持った。
「何か、分かったのか?」
通常、情報の不足は不安の種となる。では、なにか情報が得られたのか。一ノ瀬アザト自身が何か話した、ということはないだろう。
「ええ。『彼ら』がいろいろと情報を提供してくれたわ」
その単語をシュウが聞くのは、半年ぶりであった。ナギサを含む、一部の人間の脳に直接電波を送りつけてくるという、正体不明の存在。
その受信に必要なものは果たして特異体質か特殊な精神性か。
「例の、自称未来人?」
自らを未来の地球人と名乗り、断片的な情報を送ってくる『彼ら』の支援がなければ、とうに人類は滅亡していただろう。その全てを、異形に食い尽くされて。
「ええ。一ノ瀬君のことも教えてくれたわ。彼ね、未来人の使える手段の中では最も危険で、最も効果的な兵器だったんだって。この時代を起点に、世界改変のようなものを行って、未来の戦局を変えていたそうよ。おかげで完全勝利ですって」
まさか、その『彼ら』が一ノ瀬アザトを最終兵器扱いしていたなどとは、思っていなかったが。もっとも、そういうことならば未来人がこの時代に助力を惜しまず強化人間などという技術を送ってきたことも、まだ納得がいく。この時代の陥落はそのまま世界改変兵器の喪失であるからだ。
「ダンナって、そんなこともできたのかよ……」
親友がそんなとんでもないものになってしまっていたことに気づけなかった己の不明を、シュウは心の底から恥じた。
「ええ。時雨坂君が聞きたい一ノ瀬君のことの答えになってるといいんだけど」
ナギサはそんなシュウに、あくまで優しく微笑みを向ける。
「あぁ、まあ、間接的な答えにはなったよ。ありがとな。ナギサちゃん」
そう言って部屋を後にするシュウの眦には、一つの決意がにじんでいた。
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