鬼と仲間
「みんな、入っていらっしゃい」
授業を終えたミユキは、部屋のドアを開き、外で待っていた数人を呼び込んだ。
「……」
その少年少女の姿を見て、アザトは絶句した。少年少女しかいないこともそうだが、それ以上に、彼らの服装が、あまりに見慣れたものであったから。
……同じ制服だね。
守護霊、姉の言う通り、それはアザトの通う鉄窓学園の制服であった。
そして、その中の一人がアザトの顔を認めるなり駆け寄ってきた。
「ダンナ! 久しぶりだね! 元気してた!?」
ダンナ、と敬称を使いながらもどこか気安く、アザトの手を取って上下に振りながら大声を上げる。そんな腰まで届く長髪の少年に、アザトは覚えがあった。
それどころか。
「時雨坂の……お久しぶりです……」
……シュウくん……。
その少年は、アザトが決して忘れてはならない者の一人、時雨坂シュウであった。
『時雨坂の』と、直接的でなく婉曲的な呼称を用いなければならない程度には、特別な存在だった。
「あら、お知り合い?」
ミユキの問いに、アザトは首肯を返した。
「はい。それで、そちらの皆さんは?」
アザトが示す部屋に入口に立つのは、高槻ナギサを含め、3名。アザトにとって覚えのない顔は、残る2名の少女。
「私は生徒会長の高槻ナギサ。って、さっきも名前は言ったわね。それからこっちの二人が……」
「生徒会書記、姫川アリサ。足を引っ張らないように気を付けるわ……」
「せ、生徒会会計、神宮寺サクラです。あ、あの、よろしく、お願いします」
ナギサに続いて名乗った二人の少女、アリサとサクラは、どこかアザトを警戒していた。さもありなん。自分たちと異質な力を以て、自分たちが苦戦する相手を一方的に殲滅した、謎の存在が目の前にいるのだから。
それに気づかずにいられる程度の鈍感さがあれば、あるいはアザトは少しだけ幸福になれたのかもしれない。
……沈黙こそが正解だよ。アザトくん。
(分かっている。何を言っても嫌味か挑発にしかならん……だが……)
言いたいことはある。しかし、それを堪えなければならない場面もある。それを知る理性はあった。だが、高校一年生、まだ誕生日を迎えていない15歳という年齢は、感情においてそれを受け入れることを許さなかった。
「俺は……」
「そうだ! ダンナ、生徒会に入ってみないか?」
漏らしてしまった呟きを察し、助け船を出したのはすぐそばにいた時雨坂シュウ。
「し、時雨坂くん……」
が、それに不安げな声を漏らしたのは明らかにアザトに怯えている少女、サクラ。
「時雨坂の、意図が汲めません」
そして、アザトもその提案に当惑していた。
「怖がられて誤解されたまんまじゃ、ダンナもやってらんないだろ? 日常生活だけならともかく、背中預けて戦わなきゃならねえんだ。好感度は上げとくに越したことはない。そのためには、一緒に過ごすのが一番ってわけさね」
得意げですらなくただ察しの悪い友人に呆れたような調子で説明したシュウに、アザトは沈黙を持って同意した。そして、ナギサとミユキもまた、それに同調した。
「いい考えだと思うわ。お姉さんは賛成よ」
「水神先生の許可も下りたし、私から言うことはないわね。一ノ瀬君、生徒会長権限で君を副会長に任命するわ。水神先生、いいですよね?」
「勿論よ」
が、いきなり副会長への抜擢。これにはアザトが反発した。
「庶務のような末端を希望したいのですが」
大役を果たすは人望あってこそ。ならば、既にして生徒会役員二人から隔意を抱かれている自分などに務まるべくもなし。
そう思っていたアザトであったが。
「生憎、庶務は俺様なんで、空き席は副会長だけなんだ。諦めてくれよ、ダンナ」
席がないのでは、抵抗のしようがなかった。
シュウが副会長などという大役を好まず、望んで庶務となる性格であることを知るだけに、役割交代も言い出せぬままアザトは生徒会副会長の任につくのであった。
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