第107話 信頼は刃となり悪鬼を討つ
「言葉も出ないか。いや、いいぞ。全くもって期待通りの反応だ。無意味無価値な者共は高みを見上げていればそれでいい」
自らの玩具を自慢するゼドの高説に反発する余裕は、この場にいる誰にも無かった。
大まかな形は"
一般的なゴーレムの大きさは5メートル。それより一回り小さい"天"でも4メートル程度はある。しかし、赤い一つ目でこちらを見下ろし睨め付ける赤鬼は、ゆうにその数倍を超えている。
『ありえるのか……こんなものが……』
ユウは、目の前の非現実さに気が飛んでしまいそうだった。
この大きさで二足歩行する兵器など、自分の世界にも存在しなかった。あるとすれば、SFの世界だけだ。
けれど、この光景は間違いなく現実だ。感じる威圧感も、迫る危機にひりつく思考も、全ての感覚が命の危険を訴えていた。
「壱型"
「どういうことなの!? 説明して!」
膝から崩れ落ちたトヨビシは、頭を抱えて『あり得ない』と繰り返すばかりでラピスの声には答えられない。
彼に代わり、シェンが答える。
「……壱型は、祖父が戦闘用ゴーレムを造るにあたり考案した初期案だ。既存のゴーレムの欠点を全て克服したものを造りだそうとした結果がアレだ」
「アレって……あんなデカイものが完璧ってどういうことよ! 大きくて不便なものをさらに大きくしてるじゃない!」
「短所と長所は表裏一体だ。大きさ故に的になるなら、いっそさらに巨大化させ装甲を厚くすればいい。コストが問題だと言うなら、一騎当千のものを造り上げてしまえばいい。それが"空"だ」
「……しかし、トヨビシは机上の空論だと。私も、あんなものが存在するなんて信じられません。アレが自立し、まして移動するなんて……」
装甲を厚くすれば、それだけ重量が増し各関節・パーツに掛かる負荷は増加する。幾ら"藻屑"で内側から支えると言っても、外の鎧が重ければ中身ごと潰れてしまう。
"空"があらゆる攻撃を耐えるほど装甲を備えているなら、負荷がかかる膝から自重で崩壊するはずなのだ。だが、こちらを見下ろす赤鬼は、揺らめくこともなく直立している。
「そうだ、その点はどうすることも出来なかった。故に、それが解決された時に動かせるようにという
しかし、現実に"空"は動いている。
その答えの見つからないアインに、宙に浮き上がったゼドはせせら笑うように言う。
「この腕輪の力だよ。まったく素晴らしい力だ。重力制御、慣性制御、そして超再生能力。緋々色金の力など眉唾だと思っていたが……なるほど、頷けるというものだ」
「馬鹿な……そんな力、魔術ですら無い。まるで魔法じゃないですか!」
魔法。理論と技術では再現し得ず、天性の才能を持つもののみが振るうことが出来た魔の法則。現在の魔術は、それを枠に落とし込み技術として行使しているに過ぎない。
魔法には魔力が必要ということ以外は、魔法使いが存在しない今となっては全てが謎だ。確かなのは、魔術では考えらない力を振るうということだけだ。
そんな力を、あのちっぽけな大きさの腕輪が秘めているというのか。
戦慄するアインに、ゼドは誇らしげに告げる。
「その通りだ。そして私は、この"空"をもってプリムヴェールを滅ぼし、そして愚かな者どもに思い出させてやるのだ。人の上に立つのは魔術師が相応しいとな」
浮き上がったゼドは"空"の頭部に近づいていく。すると、頭部のフェイスガードが開き、その中にゼドが吸い込まれていく。
瞬間、操縦者を得た"空"は胎動のように震え、歪んだ叫びを上げる。
思わず耳を防いでしまうほどに不快な全身の金属が擦れあい軋む音は、この世に生誕したことに歓喜しているように思えた。
『では、これで最後だ。プリムヴェール諸共死んでもらう』
何処から発しているのかわからないくぐもった声は、ゼドのものだった。言葉とともに右腕が振り上げられ、そして振り下ろされる。
「まずい……! 逃げないと!」
「走っても間に合わない! 皆、固まって!」
ラピスが中心となり、彼女の体に全員が腕を回す。アインが地面に手をつき、魔術を詠唱する。その間にも、頭上には死が迫りつつあった。
「風よ、吹き荒れろ――!」
「大地よ、我が呼びかけに答えよ――!」
二人の魔術が完成するのに一歩遅れて鉄拳が屋根を砕いた。完全に振り下ろされた拳は、大地を揺るがし爆音めいた衝撃で周囲の残骸を吹き飛ばしていく。
半壊した工房には、アイン達の姿はない。彼女たちは、工房の外へと脱出していた。
「……ゴーレムに投石機のように投げ飛ばさせ、纏った風で加速か。ギリギリだったが、何とかなったな」
「そうね……これからどうなるかは、わからないけどね」
絶望を滲ませた声で呟き、ラピスは"空"を見上げる。城か要塞かと錯覚するほどの巨体が、ゆっくりとこちらに向き直り赤い瞳を向けた。
"空"と人の体格差は、まさしく象と蟻というに相応しい。"天"の手持ち砲ですらカスリ傷をつけるのが精一杯だろう。ラピス達に光明があるとすれば、
「……ラピス、こいつを持っておけ。ブラッドルビーほどではないが、それでも特級のルビーじゃ」
ツバキから渡された大粒のルビーだけだ。これを使って生み出した炎であれば、あの装甲を貫ける可能性はある。
だが、貫いただけでは意味がない。"空"も"藻屑"で満たされているはずだが、それを焼き尽くさねば止まらない。その量は、"天"の数倍以上だろう。
それを乗り越えたしても、不死身の肉体を持つゼドが残っている。灰になるまで焼き尽くせば死ぬかもしれないが、それすら確証はない。
――それで駄目なら、打つ手はない。
脳裏によぎった思考を、ユウが制止する。
『今は考えるな。とにかく、アレを止めないと街まで更地になっちまう』
『……わかってます。けど、避けて通れない問題です』
『それは俺が考える。だから、お前は戦うことに集中しろ。その間に絶対に倒す手段を見つけ出してやる』
そんな自信も根拠もない。けれど、自信満々に言い切るしか無い。
何故なら、自分は彼女の杖だ。倒れそうな体を、折れそうな心を支えてやるのが自分の役目だ。だったら、そうするしかないだろう。
「……はい! 任せました!」
アインは鞘を叩き、目の前の赤鬼に睨み返す。
逃げる選択肢などあり得ない。そんな自分では、隣に並び立つ彼女に誇れない――!
一歩踏み出しだアインとラピスは、お互いに顔を見合わせる。
「勝てると思う?」
「わかりませんが……負けるつもりはまったくありません」
「奇遇ね、私もよ」
微笑んだラピスは、表情を引き締めると振り返り叫ぶ。
「ツバキは3人をお願い! アレは私とアインで何とかする!」
「期待しておるぞ! オラ、御主はいつまで蹲ってるんじゃ! 男ならシャキッとせんか!」
「二人共……死なないで!」
ツバキ達が離れていくのを確認し、ラピスはアインに耳打ちする。
「たぶんゼドは"空"の目を使って視界を得ている。目を潰せば、かなり戦いやすくなるはずよ」
「私が気を引きます。その隙を狙ってください」
「了解。行くわよ!」
「はい!」
アインは応えると同時に光球を"空"目掛けて解き放つ。普段の数倍の魔力を込めたそれは、動かない"空"の胴体に直撃するが、巨体は微塵も揺らぐことはない。
『まったく無意味だな。その無価値な命、ここで絶やしてやろう。"我が手に栄光と力を"!』
「勝手に言ってろ!」
"空"が一歩踏み出す。その動きはスローだが、図体を考えればその一歩は凄まじく大きい。カスリでもすれば、それだけで命を散らすことになる。
そんなことはゴメンだ。
「大地よ、その身を削り深淵に至る道を示せ!」
地面についた手から生まれた青白い閃光が前方の地面を奔っていく。閃光が渦巻いた地点の大地が削れ、巨大な直径の落とし穴が現れた。
幾ら巨体とはいえ――
『ふん、小賢しい真似を』
"空"は落とし穴の前で停止し、左腕を屋敷に向かって伸ばす。そして、母屋の一部を引きちぎるように持ち上げると、アイン目掛けて投げつけた。
「めちゃくちゃな……!」
悪態をついて詠唱を中断し、アインは全速力で走り迫る凶器から必死で逃れる。背中に響く崩壊音に血の気が引くが、ビビってはいられない。横目に、ラピスの姿を確認する。
案の定、ゼドはアインに気を取られて塀側に回り込んだラピスに気がついていない。大きさゆえに足元が見えないのか、戦い慣れていないのか。どちらにせよ、アイン達には有利な条件だった。
『貴様らのような有象無象に、我が悲願を邪魔されてなるものか。この時を、どれだけ待ち望んだことか』
「悲願なんて言い繕ったところで、結局はただの逆恨みでしょう!」
『黙れ。貴様に何がわかる。寄辺も無ければ歩むべき道も無い放浪者風情に栄誉を奪われた苦しみ……悔しさは……わかるまい!』
激昂と共に拳が大地を殴りつける。狙いはまるで定まっていないが、打ち付けただけで吹き飛んでしまいそうになるほどの衝撃がアインを襲う。
アインは、歯を食いしばり伏せることで衝撃をやり過ごし、叫び返す。
「栄誉を取り戻すというなら、やるべきは復讐ではなく復興だったでしょう! 復讐した所で得るのは栄誉ではなく自己満足だ!」
『違う! これは奪われたものを取り返す正当な復讐だ! 支配されるべき弱者から取り返すのだよ!』
「奪われたのではなく失っただけだ! そうやって他人を見下すことしか出来ないから、星を視ることも出来ず、泥しか見えない! そうして歪んだエゴを押し付けているだけの老人が!」
『若造が吠えるな! 貴様らが無意味な者と無価値な時間を過ごす間にも、私はひたすら耐えてきた! 緋々色金の腕輪を手に入れる前も、それからも!』
アインが着地を狙って生み出した落とし穴に片足が嵌るが、"空"は倒れない。目の前のアインを叩き潰そうと、大地を踏みしめ続ける。
"空"が右手の手刀を振り抜き、大地がえぐられる。風圧にアインの外套がはためき、吹き飛びそうになるのを必死に踏ん張り耐える。
『超えられない境界線は必ず存在する! 私とお前がそうであるように、無能者が魔術師を超えることなど出来ぬ! それがわからぬのか!』
「……わかりませんね」
引かれた
『何故だ! 貴様も魔術師ならわかるだろう! 何故、特別な者が無意味無価値な者共に従わなければならぬ! そんな憤怒に身を焼かれたことがあるはずだ!』
「ありませんよ、そんなことは一度だって」
つまらそうにアインは言って、境界線を一歩踏みつける。
「魔術が使えることを誇りに思っても、使えないものを見下したことは一度もありません。むしろ、羨んでばかりでした」
『羨むだと……何を羨む必要がある! 支配者の才を持ちながら、一体何を羨む!』
「そうですね……人とコミュニケーションがちゃんととれる人は、とても羨ましかったです。他人から話しかけられても動揺しない人も、人を安心させる笑顔の人も……ああ、私なんて足りないものだらけですね」
更に一歩、アインは境界線を踏んでいく。
「ええと、要するに……貴方が言う『特別』なんてその程度の価値しか無いんですよ。特別であることと価値があるかどうかは全く関係ありませんし」
一歩。アインは境界線を超える。
「例え、今日まで私が過ごした時が無意味だったとしても――無価値だったとは言わせません。それだけは、誰が相手だろうと絶対に」
はっきりとアインは言い切る。その目にもはや怯えはない。眼前に立ち塞がる赤鬼は、ただ図体が大きいだけの捻くれた老人だと、その目は言っていた。
『アイン……』
アインの言葉に、ユウの心から恐怖という霧が晴れていく。
そうだ。無価値であるものか。今日までの出会いが、成長が、思い出が――無価値であってたまるものか。それを否定し、無に還すというなら立ち向かうだけだ。
剣を取ることも、逃げることも出来ないのなら考えろ。それだけが喋ることしか出来ない自分の武器だ。
必ずあるはずだ。あのSFの巨大ロボめいた巨体を打ち崩す方法が――。
『――――ロボ?』
何かが噛み合う音がした。これまでに見て、聞いてきた
巨大ロボは、自分の世界でもフィクションでしか存在しない兵器だった。しかし、遠く離れた街を焦土と化すミサイルも、かつてはフィクションの存在だったはずだ。
そう、過去現在に存在しないものが、はるか未来にも存在しないと誰が断言できる?
『老人を装う必要もあるまい。本気で行く。"我が手に栄光と力を"』
『生体反応及び声紋、認証コードを認識。
喋るからと言って意志があるとは限るまい。そんなものは、自分だって毎日目にしてきたではないか。
『だったら……俺が何とかできる』
いや、自分しかあの不死身を封じることは出来ない。問題は、危険が大きいということだが――。
「心配はいりません。ユウさんが信じてくれるなら、私も信じます」
『ああ……そうだったな。頼もしい相棒で嬉しいよ』
「こちらこそ。いつもお世話になっています」
鞘を叩き、微笑むアインにゼドは激憤の叫びを上げ、大地を殴りつける。
『その余裕はなんだ! なんだ、なんなのだお前は!?』
「私は――私たちは、少しコミュニケーションが苦手な魔術師であり」
アインは柄に手を掛け、ゆっくりと引き抜く。錆びついた刃は、月光に照らされて尚鈍った輝きを返していたが、それを恥とユウは思わない。
最初から自分ができることは、これしかないのだ。そして、それこそが――。
「そして、貴方を倒す者だ! この剣が、その命を封じることになる!」
ユウの切っ先を突きつけ、アインは吠える。
錆びついた剣を持つ少女と、見上げるほどの巨体。比較するのも馬鹿らしい戦力差だ。
『な、に……!』
しかし、後ずさったのはアインではなく、ゼドだった。静まり返った空間に響く地鳴りは、無意識の内に"空"が退いたために生まれたものだ。
それを認めまいと、掻き消すようにゼドは声を張り上げる。
『消えろ! 目障りな屑め! 私の前から永遠に!』
"空"が両腕を使って母屋を引きちぎり、頭上にまで持ち上げる。それが宙を舞えば、アインの背後にいるコノハ達にも被害が及ぶだろう。
だが、瞳を守る両手が塞がったその時を待ち続けた者がいた。
「地から生まれし朱の輝きよ! その輝きは閃光の如く過ぎ去り、その煌めきは流星の如く空を翔ける! 我が手に宿れ、朱の一撃!」
突きつけた右人差し指と中指には、握りしめたルビーの力を還元した朱い光球が輝いていた。照準は、"空"の赤い瞳に合わせられる。
全魔力を込めた一撃を、ラピスは解き放つ。
「レッドブランチ・ピアッシング!」
放たれた一撃は、まさしく流星と呼ぶに相応しい。
流星そのものを追うことは出来ず、目に映るのは朱い軌跡だけだった。空に昇った流星は、"空"の瞳の中心を完璧に撃ち抜いていた。
『なっ!?』
視界を失ったことにゼドは焦り、無茶苦茶に腕を振るうがバランスを保つ事はできず"空"は膝をつく。たまらず、ゼドは頭部のフェイスガードを開き切って姿を表す。
膝をついても、頭部までの高さは8メートルほどあるが、
「……! 行きます!」
琥珀を飲んだアインの身体能力であれば、各所を踏み台にしていけば到達できぬ高さではない。
アインは大地を一気に駆け抜け、装甲の出っ張りを踏み台にして、頭部のゼド目掛けて大きく踏み切る。
「その命、封じさせてもらう!」
アインは右手に握りしめたユウを、ゼドの心臓目掛けて突き出す。錆びついた刃が不死の肉体に食い込む――。
「……屑が。余計な手間をとらせおって」
「ぐっ!」
その直前、アインの体は空中で静止していた。震える腕を伸ばそうとするが、数ミリすら動こうとしない。
屈辱に燃えるゼドは、アインを睨み、そして手にした剣を睨む。
「こんなもので私の命を奪おうなど、思い上がりも甚だしい。その代償は、払ってもらうぞ!」
「ぎっ、がっ……!」
アインの指がユウから剥がされていき、逆にゼドの突きつけた右手に移る。そして、空中に浮くアインを引き寄せ、狙いを心臓へと定める。
「アイン!」
自分が助けようにも、頭部に隠れたゼドを狙えばアインを盾にされてしまう。頭部まで登る時間も体力も自分にはない。
どうにもならないことを理解しながらも、ラピスは打開策を必死で考え、そしてアインを信じ続けた。
彼女が、ユウを武器として使ったことなど一度もない。なのに、彼女はそれを手に向かっていった。ならば、それは必ずなにかあるはずなのだ。
だから、死なないで――!
「お前も"藻屑"に溶かしてやろう。屑の末路としては十分過ぎるだろう」
「言い、ましたよね……その剣が、命を封じると……」
アインは、ゼドを睨み返しながら、不可視の腕に拘束された体を動かそうと力を振り絞る。
そんな彼女に、ゼドは不愉快そうに目を細め、握りしめたユウに力を込める。
「強がりはよせ。貴様の運命は決した」
ああ、そうだ。運命は決した。だが、それは彼女じゃない。
「では、死ね――」
運命が決したのは。
「直ちに"空"及び腕輪の全機能を停止。そして500年の休止状態に移行せよ」
「――なに?」
お前だ、ゼド=マツビオサ!
「なんだ、私は何も言っていない……! 誰が、誰だ今の声は!」
動揺の声をあげ、ゼドは周囲を見渡すが目の前のアイン以外に人を見つけることは出来ない。
彼に構わず、腕輪は無機質な返答を返す。
「警告。機能停止は登録者ゼド=マツビオサの肉体を形成するナノマシンの停止並びに生命活動の停止を意味する。自殺行動は推奨できない」
「構うな。直ちに停止しろ」
その声は、ゼドのものであったが、発しているのはゼドでない。彼が手にしたユウが発していた。
「了解。事前設定により生体認証及び声紋認証を除く認証行為を
「馬鹿な!? 何をしている! やめろ、やめろ!」
混乱したゼドは叫ぶことに必死となり意識がアインから離れていた。そのせいで、彼女を拘束していた力が緩まり、
「っ……黙っていろ!」
「がっ……!?」
頭部に取り付いたアインに顔面を殴りつけられ、声が途切れる。
その瞬間に、ユウは告げる。
「"我が手に栄光と力を"」
時間にすれば瞬きの間に過ぎるだろう一瞬。しかし、ユウとアインには永遠とすら感じられた時が流れ、
「確認完了。命令に従い、本機は500年の休止状態に移行します。では、良い眠りを」
ユウの考えが正しかったことを証明する無慈悲な声が腕輪から発せられた。
その瞬間、ゼドの体に異変が生じる。
「あっ、ああっ、ああああああああああああ!」
目を見開き言葉にならない声をあげるゼド。その体がひび割れ、肌は実年齢を思い出したように土気色へと変貌していく。髪は瞬く間に抜け落ち、双眸は深い闇を湛えたくぼみと成り、死を間際にした老人のそれに変わり果てる。
その変わりようにアインは息を呑み、慌ててユウへと手を伸ばす。
「なっ……! ユウさん、ここから離れますよ!」
アインは、皮と骨だけになった手から滑り落ちたユウに手に取り、すぐに鞘へと収める。そして、そのまま装甲を蹴って大地へと自由落下していく。
両足に走る衝撃に備えようとアインが歯を食いしばった時、突然真下から強風が吹きつけた。そのお陰で、さほど衝撃が掛からず着地することに成功する。
「ったく……無茶ばかりして……」
「ラピス!」
限界まで魔力を引き出し、崩れ落ちた彼女に駆け寄りアインは両腕で支える。
心配そうな顔をする彼女に、ラピスは力なく微笑む。
「上手くいったみたいね……アイン……ユウ……」
「はい、ユウさんのお陰です」
「いや……アインのお陰だ。正直、上手くいかない可能性だって十分あった」
声が震えていることは自覚していたが、それも仕方がない。一歩でも外れていれば、自身の刃でアインの命を奪っていたかもしれないのだ。
本当に上手くいって良かった。何度も繰り返すユウに、アインは同意するように頷く。
「はい……本当に良かったです」
アインは腕の中のラピスを見つめ合い、聞こえてきた声に顔を上げる。
その先には、声を上げながら駆け寄るツバキとコノハ、トヨビシに肩を借りるシェンの姿があった。
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