第37話 明かされる真実・後編
「この魔方陣とラピス君を利用した理由については説明した。次は、この体について説明しようか」
ここが教室かのように静かな口調をしたその声は、紛れもなくレプリのものだった。しかし、その声の持ち主は灯火が消えた目で虚空を見つめている。声は、鎧の中の闇から発せられていた。
奇妙な悪寒の正体はこれだった。命も意識も持たないはずの鎧が動き喋っている不自然さ。フェイスガードから見えるのは虚無だけで、人の温かさは何も感じられない。
黒鎧――レプリがゆっくりと顔を向ける。闇に見据えられた二人は、冷たい汗が流れるのを感じた。
「アイン君が見つけたダイヤモンド。あれには魔術・魔力を増幅させる力がある。知っていると思うがね」
「ええ、この場にあれば貴方に向けていたでしょうね」
「残念ながらそれは叶わないな。あれは、このリビングメイルに私の魂を定着させるために砕けてしまったからね」
「なんですって!? あんな貴重なものを使い捨てたっていうの!?」
ラピスの怒りもレプリには届かない。独りよがりな独壇場を演じ続ける。
「理論はほぼ完成していたし、資金も偽造宝石で随分と集まった。しかし、魔術を成立させるための膨大な魔力、魂を確実に鎧に向かわせる手段、そして何よりも確証が無かった。意志を宿した道具は、伝説の中にしか無かったからね。しかし……くっ、くくっ……」
そう言ってレプリは顔を手で覆う。小さく零し続ける笑い声、小気味に震える鎧が擦れ合い耳障りな音を立てる。そして、タガが外れたように大声で笑い出す。
「ははははははははははははははっ! アイン君、ユウ君。君たちのお陰だ! 意思を持った道具を私の前に運んできてくれた! まさに福音だよ!」
「意思を持った道具……ユウ……? まさか、その剣がそうなの?」
「……はい。良からぬ輩に知られないよう黙っていましたが……最大のミスでした」
「お前のせいじゃない。元々俺が言い出したことだ。けど、責任は取れそうもないな……」
安易な行動を後悔するユウ。それを嘲笑うようにレプリは哄笑を続ける。
「君たちは私が欲しかったものを全てくれた! 魔力増幅器! 指向性魔方陣! そして一番の問題だった確証をくれた! 机上の空論でないと証明する最後の一押をくれたんだ! ありがとう、本当にありがとう!」
「なに……なんなの……こいつ……」
何もないはずの鎧の闇。その闇が歪み笑っているような錯覚に、ラピスは後ずさる。狂気とも言える情熱に身を焼かれながらも歓喜を叫び続ける姿は、おぞましさしかなかった。
「……何故、そんなことをした?」
疑問がユウの口からもれる。
リビングメイルに魂を移すことが目的なら、その理由は何だ。そもそも、何故アインをおびき寄せた? 既に目的を達成したのに、アインがいれば邪魔にしかならないだろう。
その疑問に、レプリはそんなこともわからないのか、と肩をすくめる。
「目的は最強のリビングメイルを作ることだけだ。理由はない。敢えて言うなら、『やりたかったから』だ」
「やりたかったから……?」
「そうだ。子どもが木を登るのは何故か。『枝の先に果実が生っているから』。それは正しいだろう。だが、例え葉の1枚も無い枯れ木であっても、子どもは木を登る。それは、目的を達成して得る結果を求めているからではない。目的を達成することが目的なのだよ。私にとっては、この体がそうだ」
「じゃあ、アインをおびき寄せたのは何故だ! もう協会にも悪事は知られているんだ、お前には後がない! こんなことをして何になる!」
質問は一つずつにして欲しいね。そう言いながらも、レプリは律儀に答える。
「アイン君をおびき寄せたのは、最強であることを証明するためだ。証明するためにはふさわしい相手が必要で、それがアイン君だったというだけだ。後がない? もう目的は達成してるんだ、後なんて必要ないだろう」
つまらないことを聞かないでほしいな。そう言い切るレプリに、3人は絶句する。
ただ自分のリビングメイルが最強だと証明するために、野盗を組織しフクスの名を騙り、ラピスを餌にし、それがどんな結果になろうとどうでもいい。そんな子どもじみた身勝手で傲慢な目的のために――。
「だけど、そうだな。アイン君を選んだのは実のところ私怨とも言える。私のリビングメイルは失敗作だと言ったことは、かなり頭にきた。あの結果は才能を笠に着た愚図のせいだ。少なくとも私が使っていればもっと結果を出せただろう。ああいう愚か者は金だけを出すべきで口をだすべきでは――おっと、人が話している最中に魔術を撃ち込むとは非常識だな」
私語をする生徒を咎めるような軽さで言うレプリ。対面するアインが述べるのは反省の弁では無く、
「貴方は許せません。人の命を、誇りを……都合のいいモノとして扱う貴方だけは!」
宣戦布告の言葉だった。レプリが纏う狂気の炎を凍てつかせんと、青い瞳は敵を正面から見据えていた。
「……そうね。私を撒き餌にしたツケは、払ってもらわないと気がすまないわ」
その言葉にラピスも同調し、構える。それにためらいはなかった。目の前にいるのは倒すべき敵だ。
「
余裕の現れか、レプリは大きく両腕を開いて二人の動きを待っていた。どんな攻撃も意味は無いと嘲笑うように。
「その傲慢の代償、払ってもらいます!」
アインが吼え、決戦の火蓋が切って落とされる。
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