第8話 今はおやすみ

「やりました……ああ、懐が暖かいとはこんなにも幸せなんですね……」


 宿屋のベッドに倒れ込むなり、アインは気の抜けたように呟く。緩みきった横顔を、ランプの明かりが照らしていた。


 盗賊団デスウルフは、アインによって壊滅。首領は憲兵に引き渡された。

 憲兵たちは、ひどく驚いていたが、少女が盗賊団を壊滅させたのだから無理もないかと、ユウは気に留めなかった。それよりも、威圧的な憲兵に口数を減らすアインをカバーするほうが大変だったからだ。

 誰の依頼だったのか、当時の状況などの事情聴取が終わったときには、詰所の時計は22時を示していた。

 その後、二人はムンドの元に行き依頼の成功を告げた。遅い時間帯であったが、ムンドはアインを歓迎し、何度も称える言葉を口にした。報酬は、ひとまず半額の5万リルを受け取り、後日半分を受け取るということでその場を立ち去った。

 そして、盗賊団を相手に大立ち回りをした少女は、


「しばらく仕事しなくても平気……本も借りれるし、鉱石も買える……」


 今は、機嫌良さそうにベッドの上で足をパタパタと動かしていた。


「まあ、お疲れ様でいいのか。俺も、今日1日で色々ありすぎて疲れたよ」


 ベッドサイドに立てかけられたユウは、疲れを吐き出すように言う。

 目が覚めたと思ったら剣になっていて、危うく拾われた少女に売り払われそうになり、そして盗賊団退治の見学。一生を通じても経験しようがないことが1日に詰め込まれていた。過密スケジュールにも程がある。


「少しは慣れましたか?」

「なんとも言えないな。わからないことだらけだし、考えようとすると嫌な考えばかり浮かぶ」


 このまま剣として一生を過ごすのかとか、そもそも寿命があるのか。不安を数えればキリがない。

 しかし、アインは眠たそうな声であっけらかんと答える。


「まあ、なんとかなりますよ。たぶん」

「無根拠か……」

「いいじゃないですか、無根拠。どれだけ根拠があっても信じられないなら無いのと同じなんですから。それなら、無根拠でも信じて心の平静を保ったほうがお得ですよ」


 そう言ってアインは、欠伸をする。今日は疲れました、と呟きランプを消した。


「明日のことは、明日考えましょう……。おやすみなさい……」


 そう言ってすぐに安らかな寝息が聞こえてくる。寝付きの良さに呆れつつ、ユウは瞼を閉じようとする。

 実際に瞼があるわけではないが、目の前は暗くなった。だったら、眠ることも出来るだろう。


「無根拠でもいい、か」


 アインの言葉を反復する。

 かなり無責任な言葉では合ったが、考えてもどうにもならないことなら、どうにかなるさと信じる方がいいが確かにお得だ。そう思うと、気は楽になった。


「明日のことは、明日考えるか……」


 ユウは、そこで思考を打ち切る。静かな寝息を耳にしている内に意識は沈んでいき、やがて完全に眠りに落ちた。

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