第6話 初めての依頼・探索編
街から数キロ離れた森林地帯。森の浅い地帯では、燃料用の薪木や堆肥にするための落ち葉を集めるために、周辺の農民も出入りしている。
しかし、街道から離れるほど樹木は濃くなり、狼や魔物を避けるため人が立ち入ることはなくなる。
ムンド曰く、野盗たちのアジトは、農民たちが立ち入らない奥深い所にあるということだった。
日は落ちかけ、黄昏色の光が森の中に濃い陰影を作り出していた。数時間もしない内に、周囲は闇が支配する世界へと変わるだろう。
そこに一人、外套のフードを被ったアインの姿があった。木陰に身を隠し、慎重に辺りを見渡している。
「アジトの位置はわかるのか?」
「大体は……野盗たちは、この森の街道沿いでよく出没するようです。そこから踏み固められた道があれば、おそらくその先にあると思います」
そう言ってアインは、地面を示す。周囲の地面と比べ、指差した地点は押し付けられたように固まっている。うっすらと車輪の轍も残っていた。略奪品を荷車で運んだ跡だ。
野盗――デス・ウルフ――は、街道に出没し『通行料』として荷物の一部を略奪している。全てではなく一部なのは、何度も略奪を行うため、大規模な被害者を出さず討伐の手を遅らせるためだ。潮時になれば、ここを離れまたどこかで同様の行為に及ぶのだろう。
アインは、轍に沿って歩いて行く。草木が不自然に少ないことから、ここを頻繁に通っている者がいることがわかる。歩きやすいように刈ったのだ。
「けど、一人で大丈夫なのか? ムンドも、護衛を雇う前金を出すって言ってたのに」
ムンドの情報では、野盗たちは最低でも10人ということだ。対してこちらは、少女と喋る剣で二人。ユウの心配も当然ものだ。
それに対してアインは、淡々と答える。
「複数だと、隠密行動が難しくなりますから。攻め込まれるとは思っていないでしょうし、混乱に乗じて一気に仕留めます」
「一応一人で来た考えはあるのか……。護衛と一緒だと落ち着かないから、とかそんな理由だと思ってたよ」
その言葉にアインの動きが止まる。が、何もなかったように再び歩き始める。
「……おい、本当にそうなのか?」
「違います、意思疎通が出来ず要らぬ犠牲が出る可能性を排除しただけです」
「認めてるじゃないか。言っておくけど、俺は何も出来ないからな?」
「大丈夫です、ユウさんは終わった後のことを考えてください」
取らぬ狸の皮算用にならないといいけどな、とユウは、ぼやくように言う。
ただ、一人のほうがいいというのは本当……だと思う。護衛が必要だったら自分に交渉させていただろうし、一人でも大丈夫だという自信があるのだ。後は、それが蛮勇でないことを祈ろう。
彼がそう考えている間にも、アインは慣れた様子で森を進んでいく。太陽は完全に沈み、辺りは闇に覆われていた。月と星の光も、木に遮られ心許ない僅かな明かりしか届かない。
「さすがに暗いな……」
「先に見つけられると意味がなくなりますから……これで、我慢です」
アインは、右の人差し指を立てる。そこへ、小さな青白い光が生まれ、周囲を薄く照らす。十分とは言えないが、足元を照らすだけなら間に合う程度の光量だ。
それから進むこと数十分。不意にアインは、立ち止まり姿勢を低くする。
「松明の火が見えました。近いです」
アインが示した先に、僅かに火が揺らめくのが見える。
そして、視界が開ける。茂っているはずの草木は刈られ、小さな広場上の空間が広がっていた。
その中心には、焚き火が燃え上がり、それを囲むように8人の男たちが座り込んでいる。
いよいよか。ユウは、頭の奥が痺れるような緊張感を和らげようと胸に手を伸ばそうとし――手がないことを思い出したので、代わりに、
「落ち着いていけよ」
自身にも言い聞かせるように小さく言った。
アインは無言で頷くと姿勢を低くしたまま、音を立てないようゆっくりと進んでいく。
敵は、すぐ間近に迫っていた。
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