第5話 異世界の私と入れ替わるって、なにそれ怖い

「よぅ! 今朝は何だか調子が変だったな」


 放課後の下駄箱で風待が話しかけて来た。風待には何と言い訳しよう……。

 今朝は、学校についたところで、朔夜に連れ出されて神社へ行った。その後、また、穴に落ちて、神社に着いた。突然学校からいなくなって、遅刻の言い訳をどうしようかと思っていたけれど、遅刻はしていなかった――って自分でもわけがわからないので説明しようもない。


「風待……実はね……神社に行っていたんだけれど……」


「神社? あれっ? ちょっと待て、あれは柏木先輩じゃないか? 珍しいな」


「柏木先輩? 本当だ、一体どうしたんだろう……」


 今朝の事は夢だったのかもしれない、と、実はまだ思っている。柏木先輩と私が恋人同士になっている異世界……なんて素敵な世界だったんだろう。でも、そんな事ある分けない、あれはきっと夢なんだ……でも、でも、ちょっとだけ期待してしまう。柏木先輩が私を迎えに来てくれたんじゃないかって、だって、ほら、こっちを見ている……。


「明日菜ちゃん……良かった、待ってたんだ……実はね、今朝の事なんだけど……」


「今朝の事……」


 思い出して胸が高鳴った……でも、明日菜って……明日菜って呼び捨てにはしてくれないんだ……やっぱり……。


「僕、いろいろ考えたんだけど、やっぱり明日菜ちゃんのこと好きだと思うんだ、それで、付き合ってみようかなと……」


「えええ!?」


「マジすか柏木先輩! 正気ですか? 大丈夫ですか?」


「ちょっと、風待! あんた、何言ってんのよ! 失礼じゃない?」


「ああ、失礼しました、柏木先輩……正気じゃないなんて言って済みません。でも、本当に大丈夫なんですか?」


「私に失礼だって言ってんのよ! 大体アンタは……」


「あはは、相変わらず、二人は仲良しだね」


「いや、柏木先輩……風待とはそんなんじゃなくって……で、どういう事なんですか?」


「どういう事も何も、明日菜ちゃんが今朝、僕に言ったんじゃないか、『週末はデイズネイルランドへ連れて行きなさい』って」


「え!? そんなこと……私……ええっと、なんでそんな話になったんでしたっけ?」


「もう覚えてないのかい? しょうがないなぁ、今朝、明日菜ちゃんが目が覚めたら、神社の境内にパジャマ姿のまま寝ていて、どうやら、毎日の生活のストレスで、夢遊病にでもなってしまったらしいから、ストレス解消にデイズネイルランドへ取れて行きなさいと……」


「は? でも、なぜ、柏木先輩に……」


「そう思うだろう? だから、僕も聞いたじゃないか、なぜ、僕に言うんだい? と聞いたら……」


「聞いたら……?」


「それは、柏木君が私の事を好きだからに決まっているでしょう? って……」


「は……?」


「そう、それで、僕も唖然として、いつからそんな事になっているんだい? って聞いたんだよ、そしたら、逆に怒られて……」


◇~~~

『柏木君、いい加減にしなさいよ、さっきから調子をあわせてあげてたらいい気になって……柏木君が私を好きだから、私に付き合う、私を好きだから、私がストレスで夢遊病になってしまったのを心配する、私を好きだから、心配してデイズネイルランドへ連れていく! わかった?」


「わ、わかった……あ、いや、ちょっと、待ってよ!」


「そうね、じゃあ、放課後まで待ってあげる、じゃあね」

◇~~~


「と、言うわけなんだ、で、付き会うことにしたんだ、で、デイズネイルランドにも連れていくよ。夢遊病は大丈夫そうかい?」


(ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!)


 なんだ!? その高慢な女! 私の柏井先輩にそんな口をたたくなんて許せない! 

――でも、デイズネイルランドへは行きたい……どうすればいいの? どう理解したらいいの?


「明日菜!」


 強い語気に驚いて振り向くと、朔夜がいた……制服を着ていない、きっと今日は学校を休んだんだ……。


「あ、朔夜……柏木先輩、ごめんなさい、また、後で連絡します……朔夜! 待って!」


 急ぎ足の朔夜に学校の角を曲がるまで追い付けなかった。私は混乱しているけれど、やっぱり、神社での出来事が関係していると思わざるを得なくなっていた。やっとの事で朔夜の腕を掴み、引き止めた。


「朔夜……さっきの……柏木先輩の話聞いてた? やっぱり、天神様が関係しているのかな?」


「まだ、そんな事を行っているの? いい加減に信じなさいよ」


「そうなのかな……でも、なんであんな事になったの? 私、柏木先輩にデイズネイルランドへ連れていけなんて話はしていないよ」


「――実は、私もこの事は想定していなかったのだけれど……さっき、お母さんに言われたの…… って」


「何言っているの? 朝ご飯の話なんかどうでもいいよ」


「私は、朝ご飯食べないの……しかも、昨日の夜から今朝、登校するまで、私達は異世界にいたのよ。普段、朝ご飯を食べない私のに、誰かが……いえ、のよ」


「それって……」


「そう、私達が異世界へ行っている間、おそらく、その世界の住人と入れ替わっているのよ。明日菜は異世界で柏木先輩と付き合っていることになっていたよね? 代わりに、この世界には、柏木先輩とが来たのよ」


「私の代わりに、異世界の私がこの世界に来たってこと……?」


 何だか、ややこしいけれど、私が異世界で――柏木先輩と付き合っている世界で学校を抜け出したけれど、戻ってきた元の世界では真面目に授業を受けている私がいた……という事になる。

 丁度、一時間目の休み時間に入れ替わって、私は二時間目から授業に出た。だから、こっちの世界では何も起こっていない。つまり、遅刻もしていない。

 私が異世界に行っている間、向こうの私は、逆にこっちに強制移動されているってことで……風待は今朝、異世界の私と会って、二時間目以降は私と会っている……いや、そんな馬鹿な……。


「そう、だから、の――異世界の私と明日菜にして見れば、深夜零時に、いきなり天神様の境内にワープさせられて、異世界の私はと言う事になっていて、異世界の明日菜はって感じたはずよ」


「恋人ぉ……照れる照れるぅ、やめてよぉ」


「はぁ……とにかく、今夜もう一度、異世界に行くよ。次は別の世界……同じ世界に行く確率は万に一つもないからね」


「おおお、次はどんな世界なのかな? もう、柏木先輩と結婚しちゃったりして……」


「……じゃ、約束よ。また、境内で待っているわ」

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