第2話 世界が灰色に見える事に理由なんてない
退屈な毎日の中で最も輝かしい瞬間が訪れた。その瞬間は、一日のうちの初めの方に訪れる。だから、それを過ぎれば、それ以上の何かを期待することは出来ない。ただ、退屈と言う言葉の連続でしかない。
「
「やあ、明日菜ちゃん、あれ?
「ソーなんですよ、本当にダメな兄で……柏木先輩の爪のアカでも飲ませたいぐらいですよ」
「ぷっ、それを言うなら、『煎じて飲ませる』だろ? いくらなんでも、そのまま飲ませたら可哀想だよ」
「いえいえ、生の方がいいに決まってますよ。やっぱり、生が一番です」
「……」
「先輩、今日も天気がいいですね、スカーンと晴れましたね」
「そうだね、最近天気の良い日が続いているね、あれ? 中学校はこっちじゃ無いよ、今日も曲がる所を間違えたね」
「あ、ほんとだぁ、うっかりぃぃぃ、じゃ、先輩、今日も一日がんばって下さいね!」
「ありがとう、じゃあまたね」
「はぁ……」
柏木先輩を笑顔で見送った。先輩の背中が見えなくなった途端に景色が灰色に変わる。これで私の一日は終了だ。憧れの柏木先輩との素敵な時間以外は何も意味がない。
「ああ、また退屈な一日が始まる……」
朝の弱い兄を起こさずに登校するのが楽しみだ。毎回なんで起こさないんだとケンカになるけれど、できれば毎日寝ていてほしい。なんなら、心配して柏木先輩がうちにお見舞いに来たりなんかしたら、あの世に行っちゃいそうなほど嬉しすぎる――なんて事を考えているうちに中学校へ到着してしまった。
「
「
下駄箱で靴を履こうと身をかがめた時、幼馴染の風待が走ってやって来た。風待は小学校から変わらない。何で男子って、こんなに子供っぽいんだろう?
(風待にも、柏木先輩の爪の垢を飲ませてやろうか……もちろん生で)
「へへ……おっと、あれ?
朔夜……小学生の頃は風待と三人でよく一緒に遊んでいたけれど、中学校に入学してからクラスも別れてしまって、なんだかそのまま……話しかけ辛くなってしまった。
「久しぶりね……。あれ? 朔夜? 上履きはどうしたの?」
「……放っておいて」
「何かあったの?」
「放って置いてって言っているでしょう?」
そのまま朔夜は走って行ってしまった。
「なんだ? あいつ……なんか、雰囲気変わったなぁ」
◇
――放課後、今日も何とか灰色の一日をクリアした。家に帰ってもする事は無いけれど……本当はあるんだけれど、家事とかそう言う物はあんまり好きじゃない。
「――あぁ、疲れた……おい、炎堂、帰りにハンバーガーでも食って帰らねぇか?」
下駄箱で靴を履きながら、帰ったら何をしようか考えていた所だったから風待の提案は丁度良い。
「うん、いいよ、どうせ今日もコンビニ弁当の予定だし」
「なんだ? また母さんいねぇのか、大変だな」
「別に、いない方が楽だよ」
(お兄ちゃんを起こす人がいないから、柏木先輩と一緒に学校に行けるし……あれ? これ何だろう、靴の中に紙切れが……手紙?)
「何だ? どうかしたのか?」
「ううん、何でもないの……今日はやっぱりまっすぐ帰るね」
「え? ああ……」
紙切れの差出人は朔夜だった。
――お願いがあるの。一緒に行って欲しい所があるから、今夜零時に天神様の境内に来て下さい。朔夜
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