とおりゃんせ異世界 通りゃんせの二番の歌詞が異世界への扉を開く

柳佐 凪

第1話 とおりゃんせ異世界

――通りゃんせ 通りゃんせ

  ここはどこの細道じゃ


  天神様の細道じゃ


  どうぞ通してくだしゃんせ


  ご用のないもの通しゃせぬ


  このこの七つのお祝いに

  お札をさげに参ります

  どうぞ通してくだしゃんせ


  いきはよいよい 帰りは怖い

  怖いながらも

  通りゃんせ 通りゃんせ



 大毅たいが兄さんの目をかいくぐって抜け出さなければならない……。


 こんな夜中に一人で出かけた事なんか無い、しかも町外れの天神様の境内に呼び出すなんてどうかしている。でも、まあいい、退屈な中学校へ通う日々に、これぐらいのイレギュラーぐらいはあってもいいかな。


 なにせ世の中は退屈だ。私が生きている意味なんかあるのだろうか。沢山の人が生きているこの世界に、私が参加している意味なんてない。あるとするなら、柏木先輩と、ちょっとだけ話ができる通学中だけだ。あとは灰色の世界が広がるだけ……。

 なぜ、私が世の中に意味がないと思っているか、その理由なんて物もない。誰でもが理由を求めすぎている。理由がないといけないのかな? 私がどう思おうと、ほおっておいてほしい。そう思うからそう思う……それでもいいんじゃないかなと私は思う。


 それにしても、あんな所で待ち合わせて、一体どこに行こうと言うのだろうか。あの辺りは天神様以外に、大きな川が流れているぐらいで何も無い。うちから田んぼの細いあぜ道を通って真っ直ぐ行けば、五分ぐらいで鳥居の真ん前に到着する……うちも町外れだから……うちまでが住宅地で、その向こうは田んぼと天神様、そして河原だ。


(河原で花火でもするつもりなのかな? まさかね……)


 大毅兄さんは、まだ起きているようだ。もう、二十三時をまわったというのに……だから、朝起きれないんだ。

 うちは昔ながらの旧家なので、玄関はガラガラと大きな音をたてる引き戸だ。周りは高い白壁で囲われている。泥棒の侵入を防ぐにはいいけれど、大きな外門は脱出するには難関だ、だって、ギギギと大きな音を立てるから。


(そうだ、母さんの部屋から洗濯干し場に出て、抜け穴を通って行こう)


 白壁にぽっかりとあいた抜け穴を、小学生の頃はよく使っていた。私は小柄な方だからまだ通れるはずだ。大毅兄さんは、もう無理だろうけれど。


 抜け穴をくぐると用水路にかかった橋がある。この橋を渡って、まっすぐ行けば天神様の目の前だ。


(しかし、真っ暗ね、まあ、当然だけれど)


 真っ暗な細いあぜ道には、当然、街燈の一つも無い。だけど、今日は天気が良く、星がいっぱい出ているのでそれでも明るい方だ。まさか、田んぼに落ちてしまうほどではない。ゲコゲコとカエルが大合唱する中を足速に歩いた。もうすぐ、十二時になる……二人で会うのは久しぶりだ。もう、着いているのかな。


 私は田んぼの先に見える天神様のあたりを目を凝らして見た。しかし、大きな木々が見えるだけで、人影は見えない。星明かりに照らされた鳥居が少しだけ光って見えた。


 鳥居まで到着したが、参道を一人で歩くのはちょっと怖い。ひとつ目の鳥居をくぐると階段を駆け足で上がる。多分二百段ぐらいだったと思う、大毅兄さんが部活の練習でダッシュで二百段を一気に登るんだと言っていた。

 階段を登り切ると、やっと二つ目の鳥居に辿り着いた。


明日菜あすな……来てくれたんだね、良かった……」


 朔夜さくやが鳥居の影から現れた。彼女のスカートが、生ぬるい風になびく。また話せる日が来るとは、正直思っていなかった。今朝、学校で久しぶりに会って話したけれど、それまで、一年以上も疎遠になってしまっていた。


 そう、何の変哲へんてつもない、いつもと同じ、今朝の事だった。


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