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 この少女のことは、礼拝の始めから気になっていた。制服ではなく、スカートにフリルが幾重も巻いた、水色のワンピースを着ている。縦に巻かれた金髪の房が、ぷっくりとした頬に垂れさがり、口はやや大きく、眼は碧くて丸っこい。

「みんな何を書いているの? 教えてくれないかしら?」

 シェイラが教えると、少女は笑顔になり、感想文もそっちのけで自己紹介を始めた。

「わたしはクレア・クロフォード、十五歳よ。こんな恰好だけど、月曜日から第四学年に入学するの。昨日、ストーンリバー州から来たところなのよ。『なんでこんな中途半端な日に?』って思うでしょ? 違うのよ、本当は四月からのはずだったのに、お母様が『最後に一緒に旅行に』とか『五月祭は家族で』とか言って引き留めるものだから、どんどん延びて昨日になっちゃった。というか、元々は九月からのはずだったの。お母様とアイリーンとヘレンに頼み込まれて四月からにずらしたのよ。学校って、普通は九月からなんでしょ? 実はわたし、学校って生まれて初めてなの。アイリーンに色々教えてもらったけど、きっと分からないことがたくさんあるわ。アイリーンはわたしの家庭教師なの。それからヘレンはお母様の侍女なのよ。それでね、わたしは寄宿学校って初めてなの。良かったら、これから一緒にお話しましょうよ。昼食はお部屋だったかしら、レストランだったかしら?」

 シェイラとシャーロット、そしてクレアの三人は、一緒に食堂で昼食を摂ることにした。学校が違うフレデリックとは礼拝堂を出て別れた。

 食堂で食事をするという行為も、クレアにとっては新鮮だった。クレアは興奮気味に身振り手振りを交えて、学校という場所の感想を話した。クレアは話し好きで、調子づくと一人でずっと喋り続ける。

 クレアの話題は大半が、ストーンリバー州のゴールデール市郊外にあるという実家の屋敷と、家族と使用人のことだった。おかげでシェイラたちはこの短時間に、会ったこともないクロフォード夫人とその侍女と、クレアの家庭教師について、いやに詳しくなった。

 昼食の後は、クレアの部屋に移動した。クレアの部屋は、最上級のパイン寮だ。

 主に貴族の令嬢が住むというその建物に、シェイラは初めて足を踏み入れた。パイン寮は内装の豪華さも、部屋の面積も、あらゆる物の大きさも、家具類の充実度も、全てがプラム寮の二倍以上だった。マントルピースは凝った意匠の大理石で、アップライト式のピアノもある。

 シェイラは八か月だけ住んだライアン卿の屋敷を思い出した。ここは寄宿学校の寮というよりは、貴族の屋敷の居間と寝室を一緒にした部屋だった。

 クレアはこの部屋の女主人らしく、客人のシェイラとシャーロットを丸テーブルに着かせると、呼び鈴を引いてメイドを呼び、紅茶とお茶菓子を三人分持ってくるように命じた。

 ここでは食堂にいた時よりも落ち着いて話が出来た。クレアが一人で喋り続けたのは緊張からくる興奮状態の為だったのかもしれない。クレアはやはり、楽しそうに家や家族の話をした。彼女は、シェイラとシャーロットが私生児だとは夢にも思わないのだろう。シェイラは羨ましいと感じずにはいられなかった。仲の良い家族と、経済的豊かさが揃っている恵まれた家庭環境で育つと、人はクレアのように明るく素直になるのだろうか。

 シェイラとシャーロットにクレアが加わって、平日のお昼休みも賑やかに過ごすことが出来るようになった。図書室での飲食を咎められて、シェイラたちは食堂にいるようになった。シャーロットはここでも食べながら読書していたが、クレアが加わるようになって明らかに口数が増えた。クレアは、シャーロットが迷惑そうな顔をしていても、遠慮なく話し掛ける。そしてシャーロットがお得意の嫌味を言ったり、卑屈になって自虐的な言葉を吐いても、クレアは対処法を心得ていた。そんな時は微笑みながら、

「いやだ、そんなこと言わないで、傷つくわ」

 とか、

「シャーロットったら、感じの悪い子になっちゃってるわよ」

 とか言うのである。シェイラはクレアを尊敬し、彼女は見た目よりもずっと大人なのかもしれないと思うようになった。

 シェイラはふと周囲を見回して、友達同士でお喋りしながら昼食を摂る他のグループと、自分たちは何も変わらないと思った。

 クレアとの出会いから一週間が経ち、また日曜礼拝が巡ってきた。

 すっかり友達らしくなった三人は、昼休みと同じように、一緒に席を取った。シャーロット、シェイラ、クレアが横並びに座り、クレアの隣に、エリザベスが座った。

 すぐ後にやって来たフレデリックはシェイラたちを見つけ、右端にエリザベスが子分も連れずにいるのを見て、こう言った。

「有名なブラッドフォードさん、なぜここに?」

 エリザベスは右目でちらとフレデリックを見上げ、取り澄ました様子で答えた。

「わたくし、クレア・クロフォードさんとお友達ですの。ね、クレアさん?」

 エリザベスは優美な作り笑いを、左隣のクレアに投げかけた。クレアは、

「そうね」

 と、冷淡に答える。

 その様子を見ていたさらに左隣のシェイラは、心の中で笑い転げていた。


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