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 翌日からは放課後にメイポールダンスの練習が始まった。校庭に集まった女生徒たちは確かにみな手足が長く、容姿に恵まれていた。アレクシアは回復し、いつもの愛嬌を振りまく。エリザベスは初心者のシェイラに必要以上の猛特訓をしてくれた。

 昼休みは、図書室でシャーロットと打ち解けようと奮闘する。自分から友達になろうと言った手前、それに見合う態度を取らなければ嘘を吐いたことになる気がした。

「だいぶ読んだ? 意地悪な修道院長が出てくるところまで進んだかしら?」

 いつもの席で読書するシャーロットの向かいに座って、にこやかに話しかけてみる。

「意地悪な修道院長?」

 シャーロットは上目使いに視線を送る。

「ヤーサンガー僧院の」

「それはもう読んだわ。今読んでいるのは僧院じゃなくて病院が舞台よ」

「え、もう読んだの? すごく速いね。羨ましいな。わたしは読むのが遅いから」

「じゃあ喋ってないで、自分の本を読んだら? もうすぐ昼休み終わるよ」

「そうだね……」

 シャーロットは変わった人だと思うが、シェイラはエリザベスたちよりもずっと親近感があった。

 次の日に、また話し掛けてみる。

「シャーロットは推理小説が好きなの?」

「別に、そうでもないわ」

「そうなの? 今度のも推理小説でしょ?」

「この図書室は、小説は推理小説ぐらいしか置いていないの。だから仕方なくよ」

「まあ、そうなの? 知らなかった」

「あなたのは小説ではないの?」

「わたしは歴史書を。成績を上げたいから、教科と関係するものを読みたくて」

「教科書で充分なんじゃない? 細かいことは試験には出ないわよ」

「そうかな……」

 こんな調子でも、シェイラは楽しかった。

 一週間が過ぎて、五月祭の当日になった。日曜日なので、午前中は礼拝がある。

 フレデリックのことを思うと、シェイラは憂鬱で仕方なかった。好きでいてくれるのに申し訳ないという気持ちもある。しかしやはり、出来ればもう話したくない。

 彼を避ける為に、シャーロットを誘った。待ち合わせ場所のバンブー寮の入り口で待っていると、彼女は時間通りに来てくれた。

「おはよう。待った?」

「ううん、今来たとこ」

「じゃあ行こっか」

「うん」

 シャーロットが何の変哲もないことを言うので、まるで普通の友達同士みたいだった。

 礼拝堂に入ると、シェイラは前後左右と斜め前後が埋まるように席を取った。通路沿いはシャーロットに座ってもらった。

「なんか……ずっと見てる人がいるよ」

 シャーロットが後ろを向いて言った。フレデリックだと思ったシェイラは、振り返らずに尋ねた。

「どんな顔してる? 怒ってそう?」

「すごく無表情よ」

「どこにいる?」

「一番後ろの、一番入り口側。入って来た時からずっと見ていたわ。ずっと、シェイラのことを目で追ってた」

 シェイラは入って来た時に、その席にいた男子生徒と目が合ったことを思い出した。痩せて細長く、肌がとても色白で、真っ白な顔をした少年だった。

「あなたがキレイだから見るのよね」

 シャーロットが言った。

「そんなことないよ」

 彼女には仲良くして欲しいので、とりあえず謙遜しておく。

 祭壇に目をやると、前方の席でフレデリックがほとんど横向きに座ってこちらを見ていた。彼はシェイラと目が合うと、ぱっと笑顔になり手を振った。シェイラは反射的に微笑みそうになるのを抑えて、下を向く。

「あれは……誰なわけ? めちゃくちゃ笑顔で手を振ってるけど」

「えっと……」

 シェイラは彼から逃げようとしているのだということを、シャーロットに説明した。

「美人は大変ね。わたしはブスで良かったわ」

 嫌味を食らわせられたけど、庇ってあげるとも言ってくれた。

 午後からは、メイポールダンスの本番である。昼食の後、エリザベスと一緒に部屋で衣装に着替えた。白一色の、フリルとレースで装飾されたドレスは春の妖精をイメージしているらしい。頭には花冠をかぶる。

 まずはエリザベスを、彼女のご希望通りに完璧に仕上げてから、シェイラは急いでドレスの袖を通した。アレクシアが迎えに来て、エリザベスは先に行ってしまった。

 背中のボタンに四苦八苦しつつも、どうにか着終えて、姿見の前に立ってみる。

 こうして見ると、エリザベスやアレクシアもよく似合っていたけれど、自分も全然負けていないと思う。小作りな頭部に、すらりと伸びた手足。左右対称に整った顔立ちで、大人っぽく鼻筋が通っている。アーモンド型の大きな眼は、雨に濡れた森林のような深緑の瞳を宿し、唇は薄紅に色づき、肌はきめ細かで白い。

 ただし、身体つきの方は少々痩せぎすの感があるので、もっと女性らしく胸が成長してくれればいい、などと考える。

 後ろで束ねている長い髪をほどいて、花冠を載せると、ゆるく波打つ栗毛色の髪が、葉っぱの緑や花の白とよく似合って、確かに春の妖精らしい感じがする。

 ナイトリー先生がこれを見たら、可愛いと思ってくれるだろうか。

 彼がメレノイから祭りを見物に来ているなんてことは、万が一にも有り得ないけれど。

 今日は五月らしい快晴で、会場となる広場は一面芝生だから、青空と緑の中で、真っ白な少女たちは輝いて見えることだろう。

 大勢の見物客の中で、セントルイザ女学院の出し物が始まった。広場に設けた仮設舞台で教頭先生が挨拶をし、その後、五月の女王の戴冠式の寸劇をする。そして五月の女王が見守る前で、メイポールダンスが披露される。

 中央に立てた高いポールの頂上から、色とりどりのリボンが垂らされている。踊り手はリボンを一本ずつ持ち、音楽に合わせてポールの周りを輪になって踊る。踊りながら左右の踊り手と入れ替わることでリボンを交差させていき、ポールを包むようにリボンを編む。

 見物客を見ると、地域の住民に混じってセントトマス学院のモーニングの制服姿が目立つ。友達同士で語り合い、手拍子をしたり、指を指したりしながら見ている。物色されているのだろうかと思うと、シェイラは恥ずかしくて鳥肌が立った。

 ダンスが終わると次はパレードである。エリザベスとアレクシアは慣れたもので、沿道の見物人に手を振りながら歩いている。シェイラはただ付いて行く。

 こうして滞りなく行事が終わった二日後の夜、アレクシアが部屋にやって来て、今年の「私的・五月の女王」はシェイラ・フォースターに決まったと伝えた。シェイラは入学して一月で、学院一の美少女に選ばれたのだった。


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