第52話姉がメイド服を着ている時は褒めないといけないんだが
「……どうしてそんなおかしなメイドの格好してんの?」
僕はとうとう我慢できずにそう口にしてしまった。
香玲ねえさんは空になったコップを下げると、僕の目の前で一回転してみせ、眩しいばかりの笑顔でこういった…
「気に入った?」
「まあ……いいんじゃないかな……」
「私と皇玲ねえさんで百貨店に行ったんだ。そうしたら店員さんが私のこと呼び止めて来て、私に見て行かないかっていうの。そこで私にメイド服を薦めて来たんだよ。この世の男という男はメイド服が好きなんだってさ。気持ちがくさくさしてても、メイドを見ればすぐに機嫌良くなっちゃうんだって」
「いくらだったの?」
「三、三千五」
「……皇玲ねえさんにどやされた?」
「わ、わわ……私としては皇玲ねえさんには、三百五って言ってあるから」
「……」
この普段から散々騙されてしまっている五つ目の姉に対してはもはやかける言葉は無かった。むしろ逆に彼女の小遣いなのだから、彼女がどう使って楽しもうが構う話ではなかった。
「龍龍を喜ばすためだったら、私にとっては高くなんかないよ……嬉しい?」
香玲ねえさんはなぜか多少の恥ずかしさをみせつつ、二秒後にまたこういった。
「ご主人さま……嬉しいですか?」
本当のことを言うと、僕が感じていたのはただの悪寒だった。
ただし香玲ねえさんはこの世で最も素晴らしい女性で間違いないのだ。
彼女が切実に僕のリアクションを、さながら彼女の支出は全て僕が好むか好まないかにかかっているかのように待っている様子を目にすれば、仮に気に入っていないにしても、僕としては無理してでも気に入っていると答えるしかないのだった。
ひっきょう、彼女の僕に対する善意に関しては、本心から嬉しく感じているわけだ。
「すごく……すごく嬉しいよ」
僕はクソを美味いと言わされているような表情でそういった。
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