第51話姉は優しい時が一番イカれてるんだが

 

僕にはずっと、金玲ねえさんが僕にどんな恨みがあるのか分からなかった。

 

ひっきょう小学生の頃は、彼女、僕と香玲ねえさんは、歳が近いという関係から、とにかくある種の強い結びつきがあり、毎回何かの問題にぶち当たるたびに、僕たち三人はチームとなって立ち向かって来た。


けれど高校に進学してからだろうか、実のところ僕もはっきりとは言えないのだけれど……全く何の兆候もなく、金玲ねえさんはゆっくりと僕から疎遠になり、また個性も徐々におかしなものに変わってしまい、僕と香玲ねえさんも彼女が何を考えているのか分からなくなってしまったのだった。

 

僕は最も暴力的な手段で蛍光灯の中に仕込まれていた隠しカメラを外した。

 

香玲ねえさんはぼんやりとベッドの端に腰を下ろしていた。たぶん僕がこれほどまで怒りを露わにしているのを見るのは初めてだったはずだ。

 

すでに二十四時間が経過していたけれど、僕はあれから一言も口にすることがないままだった。部屋の中にいたのは僕と香玲ねえさんの二人だけだ。

 

この部屋は同時に彼女のものでもあるわけで、つまるところ僕には一人で悶々とする空間すら用意されてはいないということなのだった。

 

「金玲ねえさんがそんなことを……龍龍、ねえさんと喧嘩しちゃだめだよ」


香玲ねえさんはそう軽い調子で僕をいさめた。

 

僕はまだ黙ったままだった。


もし皇玲ねえさんが、一家の中で最も重要視されるべきは年功序列だと言って来なかったら、僕はとっくに金玲ねえさんの前に駆けつけ、最も悪辣な態度でもってどうしてこんなことをしたんだと詰め寄っていたところだ。

 

けれど皇玲ねえさんが口にした言葉というのは、我が家の中では皇帝の命令のようなものであり、仮に香玲ねえさんが金玲ねえさんよりもたった数分遅れて生まれて来たに過ぎないとしても、僕はかつて彼女が「李金玲」というこの三文字を吐き捨てたところを聞いたことがなかった。一律、金玲「ねえさん」と呼んでいるのだ。

 

昨日、他でもないその金玲ねえさんは、隠しカメラで僕の部屋の中を覗き見ている中で、小夢が服を脱いで部屋に入ったことに勘付いた。


そうして僕が撮影されることを恐れて、小夢を抱えて浴室に向かったあのごく短い数分の間に、金玲ねえさんは僕の部屋に侵入し、パンツの位置を移したのだった。

 

そうして僕を女性のパンツを盗む変態に仕立て上げたというわけだ。

 

彼女の反撃は非常に素早かった。

 

僕などでは間に合わないぐらいに。

 

僕は腑抜けた様子で学習机の前に座り、手はマウスの上にあったものの、ゲームをしようという気分では毛頭なかった。

 

香玲ねえさんは飲み物を一杯分持って来ると、ストローを僕の口元に押し当てた。

 

僕には彼女が一体何を考えているのか全く理解できなかった。


彼女はメイド服を身にまとっていて、それがまた一般的なコスプレで見られるようなそれではなく、黒と白の二色を基調とし、レースのフリルと蝶リボンまで備えているという、一見すると確かにコスプレのようではあるのだけれど、香玲ねえさんは背中を大きく露出させ、胸元や太ももまで露わにしているせいで、見たところそのメイド衣装はごく一般的なコスプレのために使用するものとは思われないのだ!

 

だけど、小さい頃から香玲ねえさんの性質に触れて来た僕としては、何があっても彼女の好意を拒絶することだけはできないのだった。

 

従って僕が口にストローを咥え、一息にジュースを飲み干してしまうと、香玲ねえさんは満足げな笑顔を溢れさせた。

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