第49話姉に背いたバチが当たったのである

 

ジャージの下が一枚あるきりだったけれど、彼女はようやく元の様子を取り戻した。

 

「先に戻らないと。月曜の美術科の時間では前に出て発表をしないといけないし、私たちが利用できるのはこの日曜だけなんだから……」


小夢は僕に瞬きをしながら、低い声でそういった。


「見つかったら……その時でいいから私に返して、ありがとう」

 

そうするしかないようだった。


僕としても嫌はなかった。


明日もまた小夢と顔を会すことができるわけだし、今日のところはさっさと彼女と別れてしまっても、特に大きな影響はないからだ。

 

「送ってくよ」

 

「うん……」

 

小夢は腰をかがめて彼女が持って来た物を整理し始めた。

 

僕はその間に部屋の家具を元あった場所に戻し、香玲ねえさんの注意を引かないように、全て普段通りに直した。

 

クラスメートが自宅に宿題をしにやって来て、時間が来たからカバンをまとめて帰って行くという、この一般人の目からすれば普通この上ないような光景が、けれど僕にとってはいくらか新鮮かつ感動的な光景なのだった。

 

僕には姉さんたちが五人もいるわけだけれど、そんな僕だってクラスメートが自宅に遊びに来て欲しいと思う普通の高校生なのである。

 

ことに小夢は僕の部屋を女の子のようだとバカにして笑ったりはしなかったわけだ。

 

「荷物持って行くよ」

 

小夢が片付け終わったのを見て、僕はそう口に出した。

 

ひっきょう今回の荷物は小柄な彼女からすれば重すぎるほどだったのだ。もし彼女が自宅まで着いて行くことを望まないにしてもも、駅までは見送るつもりだった。

 

「ありがとう」彼女は拒絶しなかった。

 

あの消えてしまったパンツの一件以外、今日は本当に完ぺきな一日だったんじゃないだろうか。僕は微笑を浮かべながら、その一方で自分の机の引き出しを開け、カギと財布を取り出し、小夢を送る準備をしようとした。

 

しかし、だ。

 

僕は唐突にこの世界の時間の流れがゆっくりになってしまったように感じることになった。

 

ゆっくり、とてもゆっくりと、僕が引き出しを開ける速度は非常にゆっくりとなっていた。

 

僕のカギと財布の上に、覆いかぶさるようにして黒い物体が乗っていたのだ……

 

鼻先の冷や汗が滑り落ち、僕はその汗の一滴がスローモーションの要領で一コマ一コマ墜落していく様すら見て取ることができた。


これが小夢のパンツであったりすることが絶対にありませんようにと祈ったその瞬間─

 

事実と願いが食い違ってしまった。

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