第48話パンツがなければジャージでも履けばいいじゃない
僕は我に返ると、麻薬探知犬のように捜索を初めた。
部屋中をくまなくひっくり返せば、パンツ一つぐらい見つからないはずがない。きっと僕が小夢の着替えを掴んだ時にうっかり落としてしまい、その上足で蹴ってどこかにやってしまっていたに違いないのだ。
「何色?」
僕はベッドの下に潜り込みながら、唐突に、こんな質問をするのはどこかおかしいような気もしていた……
「く、黒のだけど」
「分かった。どんなデザインの?」
「へ、変態!」
「ごめん」
黒色の布っぽいものなら手あたり次第に掴みだして調べた僕だったけれど、依然として収穫はなかった。僕は本当に小夢のパンツがどこに行ってしまったのか見当もつかなかったのである。
ベッドの下には香玲ねえさんの雑多な物が沢山あった。
僕はそれらを一々引っ張り出し、そんな中でうっかり小夢の今にも血が滴りそうなまでに真っ赤になってしまっている顔を見るに至って、突然、非常に気になる疑問を思いついた。
「なんで裸になっても平気だったのに、パンツがないだけで……そ、そんなに緊張してるわけ?」
「あれは芸術のためで、今のこれは違うでしょ!」
小夢は鋭くそう叫び、僕は口を閉じて捜索を続けるしかなかった。
けれど小夢のそのパンツは足でも生えてしまったかのようで、僕はすでにベッドの下のあらゆる雑物を掴みだし、箪笥を広げ、書棚を検査しても、黒い布きれすら、もっと言えば小夢の下着なんて見つからなかったのだった。
盲目的に捜索を続けるうちに、果ては僕の中で小夢が僕をからかっているのではないかという疑念が生じ始めた。
そもそも彼女はパンツを履いていて、ただ僕の虫けらのような所業を見たいがために黙っているというものだ。
けれどそんな疑念も少し考えただけで覆されることになった。小夢が今実際に見せている泣き出しそうな態度は演技なんかであるはずがなかったからだ。
「浴室は探したの?」僕はそう訊いた。
「探したよ。何度も探したんだけど……」小夢は体をよじりながらそういった。
「このままじゃラチがあかないよ。とにかく僕のズボン貸してあげるからさ、まずは君のその……落ち着かない感じをなんとかしないと」
「わ……分かった」
僕は衣装箪笥の中からジャージのズボンを取り出し、小夢は僕に頷きつつそれを受け取ると、慌てて両足を通した。
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