第42話姉からはコスプレするなとは言われてないわけだし

 

これは僕が小夢を近くから観察する初めての機会となった。


僕には彼女の五官が素晴らしく精緻だと、それぞれのパーツが絶妙に配置され、美しさの比例が守られているとしか言いようがなんった。


ほとんど一ミリの狂いも見当たらないのだ。もし数年前の僕だったら、たぶんまたそぞろ告白していたところだろう。

 

けれど今の僕は忍耐というものを覚え、自分の白痴じみた告白癖を自制することができるのだった。


 

半時間ほどもかけて、小夢はまだ納得がいっていない様子ながら手をとめた。

 

僕は鏡を手に持ち、目に飛び込んで来たその光景のせいでしばらく言葉が出て来なかった。

 

あまりにも明らかなのにそれでいてどう表現して良いのか分からない嫌な気持ちが、僕の体の内側で暴れ回っているような感じだった。

 

鏡の中の僕は一匹のパンダになっていたのだった。


けれど奇妙だったのは、このパンダというのが泣いていて、目尻に涙を溜めている以外にも、不服と怒りに満ち満ちているところだった。

 

「どうして、これは一体……」


僕には何がなんだか分からなかった。

 

「これでよし」


小夢は作品を審美する目つきで僕のことをじろじろと見てから、満足げにいった…


「これぞ私の中の李狂龍だよ」

 

どうして小夢の中の僕はこの泣いて怒っているパンダなんだ? 


けれどこの奇怪な発想を別にすれば、僕としても小夢の技術は本当に卓越したものだと言わざるを得なかった。このパンダの化粧は何層にも分けられていて、ただ目の周りを黒く塗っただけの代物では絶対になかった。

 

「撮影始めるよ」

 

小夢は見た感じかなりプロっぽいカメラのセッティングを始めた。

 

彼女は本当にプロのカメラマンのようで、高校生って感じじゃなかった。


このグループ別発表の内容はすでに僕には手の出しようがない水準に達してしまっていた。

 

僕は命令を受け、いくつか多少こじらせた感のあるポーズをとった。


一回目はパンダの衣装のまま両手を広げ、表情は極度にもがき苦しんでいるような感じだった。


二回目は退廃的な雰囲気で床に座り込み、表情は呆然と泣き出しそうなそれだった。それ以降ももちろん奇怪な動作を続けていったわけだけれど、僕はそれらを精確には形容できない。

 

カシャ、カシャ、カシャ……

 

シャッターを切る音が間断なく僕の部屋に響き渡り、そのせいでいくらか眩暈を感じることになった。

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