第39話姉の回想からの強烈な切り替え

 

僕の二人の姉が病院で目を覚ました時、なぜか自分がベッドから見ず知らずの場所に移動していることを知り、すぐに大声で泣き始めてしまったのだ。


看護師は彼女たちをなだめ、最終的に皇玲ねえさんに電話したことで、彼女たちはようやく医者の診察を受けて家に戻ったのである。

 

あの時、僕の姉たちは一個の現実を悟ったというわけだ。彼女たちの弟というのはかなりの女好きで、将来的に痴漢になってしまう可能性があると。


 

「僕は痴漢じゃない、ただ女の子の後ろを着いて行っただけだろ!」


 

僕は猛然と目を覚ました。


全身に汗をかいていて、きまずい夢を見てしまった後で、僕はどうしてよいのか分からない気持ちを抱いていたのだけれど、僕が周囲を見回してみると、昼休みでクラス全体が静まり返っているところだと気づき、噴き出した汗が冷たいものに変わった。

 

恥ずかしいことに教室にはクラスメートが半分ほども残っていて、しかも僕は痴漢宣言をどうどうとぶち上げてしまっていたわけだ。

 

たぶん僕の日ごろからのおかしな行動のせいだと思うけれど、僕の叫びに起こされてしまったクラスメートたちは僕を白い目で見ただけで、また睡眠へと戻った。

 

そして非常にまずかったのは、それが小夢も教室で寝ている最中の出来事だったということだ。


午後二コマ目の音楽の授業が始まり、みんなが三々五々音楽教室へと移動している中で、彼女が僕の背後から軽く蹴りを入れて来ると、同時にこう呟いたのだった…


「痴漢成敗、思い知れ!」

 

もともと僕と一緒に歩いていた雲逸は正義の使者が姿を現したのをみるや、すぐに音楽の教科書を抱えて逃げてしまった。

 

昨日、僕は不注意にも告白してしまっていながら何の結果も出ず、この二日間はお互いに口をきくこともなかったわけだけれど、どうも関係の方はそんなに悪くはなっていなかったようだった。ただ告白してしまった件については彼女の口から出されることはなく、まるでそんなことはなかったかのような態度だった。

 

「言いなさい、君はどの可憐な女の子の後を着けて行ったのかな?」

 

小夢はまるめたノートで僕の顔を指した。けれど態度の方は面白がっている風で、僕の弱みを握ってやったような印象だった。

 

「小学校の時だよ、もう何年も前の話……」

 

僕は仕方なく夢で見たことを話した。正直なところ僕自身だってどうしてあんなことを夢に見たのか分からなかった。

 

小夢は老学者がそうするように頭を振ってみせた…


「きっとその子は君の初恋の相手なんじゃない?」

 

「違うよ。僕は彼女の名前だって憶えてないんだから。ねえさんにがっつりどやされたから、それで印象に残ってるだけだよ」

 

「ほんとに惜しいなぁ……私前に雑誌で読んだことがあるんだけど、男の人って初恋の相手のことはずっと忘れないものなんだってさ」

 

「それほどじゃなかったってことじゃないかな……」

 

「君があれだけクラスで告白に失敗してるの見て来てるからさ、もしその初恋の相手って人が誰か分かったら、私に応援させてよ。成功間違いない保証するから」

 

「……」

 

今になって僕の悪名のツケが回って来たというわけだ。僕はなんとも言えなかった。

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