第38話姉を病院に連れていくのはほぼ本能みたいなものだが
その日、天気は寒いというほどではなかったけれど、ただ秋の入りということで、外では冷たい風が吹いていた。
僕たち三人は揃って同時に風邪を発症し、眩暈はするし、鼻水は止まらないし、咳と吐き気も重なり、本気で僕たちは死んでしまうんじゃないかという有様だった。
当日の朝になって皇玲ねえさんは僕たちの症状が重いことを知っていたけれど、重要な仕事があるせいで家を出ないわにはいかなかった。
だから彼女は僕たちに午後には帰宅し、僕たちを病院まで連れていくと約束していたのだった。
言わずもがな、僕たちの家庭には大人というものが不在で、貧しさとか病気とか飢えとか苦しさとかは全て、最終的には僕たち姉弟で解決しないといけなかったわけだ。
だから僕もおかしな発想を持ってしまったんだ。二人の姉が寝ている間に病院まで引っ張って行ってやろうというものである。
僕は皇玲ねえさんが帰宅するのを待たず、まず香玲ねえさんを毛布で包んで手押し車の中に押し込み、さらにコートを何枚か使って金鈴ねえさんを背中に縛り付け、保険証と紙幣を掴んで家を出た。
ひっきょう、病院は家からそう遠くはない場所にあった。だいたい数百メートルってところだ。
弟が一人で一歳違いの姉二人を引き連れて病院に行こうというのだ。当時の僕が何を考えていたのか分からないけれど、たぶん恐ろしさと不安を感じていたのだろう。
姉たちがこのまま眠り続けて目を覚まさないのではないかと、毎日一緒に遊んでいた人を失ってしまうのではないかと。
病院に辿り着くと、看護師のおばさんを仰天させることになった。僕は保険証を取り出し、僕たち三人は番号を貰って、診察室の外で順番待ちの列に加わった。
秋の頃というのは本当にインフルエンザが猛威を振るっている季節だ。そのせいか僕は病院の中で偶然、同級生の女の子と顔を合わせることになった。
彼女は僕と同じくインフルエンザにかかっていて、違ったことと言えば彼女には母親が付き添っているということだった。
すぐにその女の子の順番が回って来た、次は僕の番だった。
僕は診察室で医者に診てもらった。彼は僕を小さな大人だと褒めてくれた。姉の面倒だってみることができたし、僕は得意満面で、注射されてもしかめっつら一つ作らなかった。
診察室を出ると、あの同級生の女の子と母親はすでに薬を貰って帰り支度をしているところだった。
僕は少しがっかりした。僕はあの髪を二本のおさげにした可愛いクラスメートのことが好きだったからだ。
さっき交わした短い会話だって、正直にいえばあの短く素晴らしい瞬間が終わって欲しくないと思っていたぐらいだった……
だから僕は彼女たちの後ろをこっそり着いて行くことにしたのだ。その子がどこに住んでいるのか調べて、後で彼女の家に遊びに行けたらと思っていた。
とうとう僕はその子の家を突き止めた。終始僕のことは気づかれなかったぞ、ふふ、と僕は得意だった。
そうして……家に戻ってから皇玲ねえさんに死ぬほど殴られることになったのである。
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