第34話姉の陰謀に立ち向かうこともあるわけだが

 

まず金玲ねえさんはドアを開けて部屋から出ると、手に無抵抗なパンダのぬいぐるみを提げたまま、まっすぐに僕と香玲ねえさんの部屋へとやって来た。

 

金玲ねえさんはパンダのぬいぐるみを元に戻そうとしているのだろう。


どのみちぬいぐるみは恨みも持たないし、痛みもないしも、外観上、香玲ねえさんは自分が熱を上げているパンダのぬいぐるみがすでに悲惨な虐待を受けているとは見抜けないわけだ。

 

けれど、僕はそんなに簡単な流れのはずがないと考えていた。

 

金玲ねえさんが僕の部屋に留まっていた時間が長すぎたからだ。こっそり持ち出した物を元に戻しているだけとは到底思われなかった。

 

陰謀の味が僕の鼻をくすぐり、僕はそのまま待ち続けた……とうとう、金玲ねえさんが僕の部屋から出て来たけれど、なんとその間にかけた時間はまるまる四十分だった。

 

今こそ行動を起こす時だ。土曜日になれば小夢が家にやって来るのである。僕はどんな手抜かりだって絶対に赦されないのだ。

 

つま先を立て、足音を消しながら僕は客間まで戻ると、わざと力を込めてドアを開けてからまた閉めた。


そうして大げさに通学カバンを放り出し、僕が今しがた帰宅したかのように装った。

 

またわざと金玲ねえさんの部屋の前を通り過ぎながら、僕は軽く笑い声を立て、勝利者の余裕の態度を演出してみせた。


すぐに、金玲ねえさんが怒りをぶちまけてドアを蹴りつける物音がした。金玲ねえさんは演技をしていたし、僕もまた演技をしていたわけだけれど、どちらの技量がより上回っているかは、後々にならなければ分からないことだった。

 

きままに自分の部屋まで戻ると、僕はすぐにドアにカギをかけた。そうしてから麻薬探知犬のようにすみずみまで捜査を始めた。陰謀の在り処を突き止めなければならなかった。

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