第32話姉が何か企んでいるようなんだが

 

放課後になった。

 

僕は頭を垂れつつ校門を出た。今考えているのは家に帰るということだけだった。

 

雲逸はこのところ僕と一緒に遊びに出かけないようになっていた。奴はあの映河の女子生徒と順調にいっているようで、毎日早々に帰宅してしまうのだ。


けれど奴がどこに行っているのか、僕には確認しようもなかった。

 

今日は珍しく、雲逸が僕の後ろを追いかけて来て、僕に小夢との間に一体何があったのかと説明させようとした。


ひっきょうこの件は僕たちの賭けに関係してくることだから、奴としても敵情を詳しく知っておきたいのだろう。

 

勝敗に関することは口にしなかった。雲逸の緊張した情緒を慰めてやるため、僕は特別に足を停め、小夢はこれといった返事をしなかったと答えてやった。何も見ていなかったみたいに、細かな暗示すらなかったという具合に。

 

雲逸はどうも僕の子分になってしまうのを非常に恐れているようだった。奴は何も言わず、ただ僕に一瞥をくれるとそのまま離れて行ってしまった。

 

僕はいつのもように、バスに乗って自宅に戻ると、玄関ですぐ金玲ねえさんの靴を見付けた。金玲ねえさんは今日はもう戻っているらしい。

 

金玲ねえさんの奸計を阻止してやったわけだから、僕としては喜んで然るべきところなんだろうけれど、目の前にある困難を思うと少しも喜ぶ気にはなれないのだった。

 

自室に入る前に、金玲ねえさんの部屋のドアの前を通りかかってみると、僕は不吉な物音を耳にすることになった。

 

部屋の中からは物がぶつかるようなくぐもった音が絶えず漏れ聞こえていた。


その音はまるで誰かが香玲ねえさんのあの等身大の大きなパンダのぬいぐるみを殴りつけているかのような音だった。

 

どうして僕がそんなにはっきりとイメージできたのかといえば、金玲ねえさんの奇妙な個性によって、毎回意思に沿わない出来事が起こるたびに香玲ねえさんのパンダをいじめていることを知っているからだった。万が一香玲ねえさんがこのことを知れば、たぶんまた一に泣き二に騒ぎ三に首を吊ろうとするはずだった。

 

だから金玲ねえさんは早めに帰宅して部屋の主人がいない間に、しっかりと内心の陰鬱なものを吐き出そうとしているのである。

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