第30話姉から外の女は家にあげるなと言われてるんだが

 

小夢は赤くなった顔を僕に向け、僕たちは互いに顔を見合わしながら、しばらく言葉もなかった。


彼女は何か言いたげだったけれど、すでに口元まで上がっていた言葉を呑み込み、僕としても何を言っていいのか分からず、ただ心の中で黙々とパソコン授業を担当していた先生に感謝の祈りを捧げているばかりだった。

 

「次は私の写真を記録したディスクに、変態みたいなタイトル書いちゃだめだよ、分かった?」

 

「分かった。もうしない」

 

「こんな動画作ってる時間で美術の課題の構想練った方がいいでしょ?」

 

「……うん、ごめん」

 

「私はもうどう撮影すればいいか決めてあるんだ」

 

小夢はそういった。まだいくらか機嫌を損ねているものの、ほぼ気に留めていないようだった。

 

「どこで撮影するの?」

 

ぼくはバカみたいにそんなことをいった。

 

僕としてはほとんど天に誓うことができる。これは僕の人生の中で最も愚かな質問だった。

 

小夢は興奮した様子で答えた。


その瞬間、僕は阿修羅地獄を目の前にしたような感覚を味わうことになった。


無数の縁なき衆生が血色の肉泥の中でのたうち回り、悲鳴を上げることすらできない状況で、この苦痛が一秒でも早くなくなればいいと、舌を噛み切ろうとしている、そんな地獄の様相に僕はもう少しで腰を抜かしてしまうところだった。



 

「君の家でやろう、もう構図は決めてあるんだ」



 

「……」僕はすでに僕の自宅から届く血の匂いを嗅ぎ取っていた。

 

「すごくいいよ。私が考えた構図を楽しみにしててよ。絶対に李狂龍っていう個人を徹底的に解剖してみせる作品になるから。先生だってきっと君の人生を見通すことができるんじゃないかな」

 

小夢はかなり得意げだった。僕は手足に寒気を感じながら、一方では彼女のことが可愛くて仕方がなかった。

 

「今週の土曜日にしようよ、さっとでいいからさ。私も長居するつもりはないし」

 

見たところ小夢はすでに計画を決めてしまっているようだった。

 

「どう? 大丈夫かな?」

 

「だ、だだだいじょうぶだと思う……」

 

課題のためとあっては、僕には公私両面において拒絶するような理由はなかった。たとえば……


「ああ、僕のねえさんたちは自分の弟に好感を抱いている女性のことをめちゃくちゃ嫌ってるんだ。だから君の安全を考慮すると来ない方がいいな」、


「課題なんて大して重要じゃないでしょ、表で適当に撮影すればいいって」、


「同級生の誰もウチには来たことないんだ。君だって例外じゃない」、



このどれ一つをとったって、使える理由があるか?

 


僕が姉コンだという事実だって、小夢に知られたくはないのに。

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