第26話姉が納得すれば後はどうでもいいわけだが

 

「皇玲ねえさん、僕が間違ってたよ。僕が悪いんだ。次からはこんなことしないから」


僕はすぐに許しを求めた。

 

皇玲ねえさんは僕の襟元を掴み、ベッドの上へと放り投げると、手足を奮って僕を殴り付ける演出を施した。


けれど大部分はそうしているように見えるというだけで、そもそも本当に僕を殴っては来なかった。

 

「ああ! もうしないよ、皇玲ねえさん僕が悪かったから、殴らないで、もう殴らないでよ──」

 

僕は喉を全開にしてそう許しを求めて叫んだ。

 

部屋の外に這いつくばっていた香玲ねえさんが鋭く叫んだ…


「おねえちゃん、龍龍には口で説明すればいいでしょ、殴ることないじゃない!」

 

「お前は黙ってろ。今日はこいつの足一本ぐらい折っておかないと、こいつは永遠に『長女は母の如し』って言葉の意味を理解しないんだから、ふん!」


皇玲ねえさんはそういうや、また僕を殴りつけた。

 

香玲ねえさんはそれ以上見ていられなくなったのか、皇玲ねえさんの腰に抱き着き、涙ながらに今しがたのことはちょっとした行き違いというもので、それ以上殴るようなことはしないでくれと訴えた。

 

目の前では『藍色●●網』よりもまだ犬も食わないような昼ドラのシナリオが上演されていたわけだけれど、僕はまだ役に徹していた。


香玲ねえさんというのはどれだけ怒っていても僕に対しては情に厚いし、皇玲ねえさんだってまたそうなのだった。

 

皇玲ねえさんは胸元を上下させていた。見たところ非常に怒っているようだったけれど、僕は彼女が心の中で笑っていることを知っていた。

 

「どうせ私たち五人姉妹はこいつのことを嫌っているんだから、殴り殺したってかまわないだろ。こんな弟だったらこっちから願い下げだよ」


皇玲ねえさんはまだ不満そうにそういった。

 

香玲ねえさんは涙ながらにいった…「ダメ、私には必要なんだから……」

 

「だけど、お前だってさっきはこんな憎たらしい弟なんて要らないって言ってただろ?」

 

「……」


香玲ねえさんは口元を歪ませ、顔を赤くさせた…


「おねえちゃん……それは言わないで……」

 

「どういうことなの?」

 

「わ、私にはちょっと……」

 

「じゃあ殺すぞ」

 

「だめ、殴らないで!」

 

「……だったらお前たちは相思相愛なんだな?」

 

皇玲ねえさんは僕と香玲ねえさんをみやった。

 

「はいはいはい」


僕は親指を立てていった…


「僕と香玲ねえさんは仲良しです。僕が間違ったことを言っても、香玲ねえさんはきっと僕のことを許してくれます」

 

その後……

 

香玲ねえさんは頭を垂れ、ゆっくりと頷いた。

 

事態は平和裡に終わったというわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る