第23話マジキチだろうが姉はやはり頼りになるんだが

 

香玲ねえさんの期待に満ちた表情は、どこか異常なものへと変化し、彼女の精緻だった容貌が、ゆっくりとしわくちゃになり始め、片手を胸元に当て、失神してしまったように、客間のフローリングへと倒れ込んだ。

 

本気で、その光景ときたら僕が香玲ねえさんの心臓を撃ち抜いたかのような光景だった。

 

なんだよこのあり得ないリアクションは!

 

「皇玲ねえさん……龍龍が私なんて必要ないって……うう……家から出ていけって……おねえちゃん、おねえちゃん今の見てた……うう、私お嫁さんになんかなりたくない、彼氏なんかいらないのに……うう……どうして私にそんなこと言うの……どうしてどうしてどうして? うう……ううう……」

 

香玲ねえさんは部屋の隅に詰め寄って声もなく泣いてしまっていた。僕はすでに呆気に取られてポカンとしていた。

 

「はぁ……この役立たずが、お前が揉み始めるのを私がどんだけ待ってるか分かってないのか?」


皇玲ねえさんは悲しみと怒りを滲ませていた。

 

「……皇、皇玲ねえさん、僕どうしたらいいの?」

 

「お前じゃどうしようもない、私に任せるしかない」

 

「じゃあねえさんに任せる」

 

「はぁ、一回の借りだぞ」

 

「わかった」

 

「三回で李狂龍を人体按摩機として使用する券になるやつだぞ」

 

「はいはいはい……皇玲ねえさんがそういうならそうするよ」

 

「交渉成立だな」

 

僕と皇玲ねえさんは互いの耳元でそう適当に協議を成立させた。


この厄介な事態を、皇玲ねえさんは僕のために収束させてくれるというのだ……僕は実際のところ非常に感謝していたのだった。

 

「この逆子野郎!」


皇玲ねえさんは猛然と立ち上がると、僕の腹を蹴りつけた。


「香玲は今日、お前が原因で体調がすぐれなくて学校を早退して来たんだぞ、なのにお前はまだ姉に害をなす気か! 死にたいのか? お前なんか顔も見たくない! つべこべ言わずに出ていけ! 聞いてんのか!」

 

呆然と頭を上げてみると、皇玲ねえさんが僕に対して眉を持ち上げたのをみた。


僕たちが十七年間で培養した暗黙の了解によって、僕はすぐさま皇玲ねえさんがまず僕をここから退場させようとしているのだと分かった。

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