第20話姉の攻撃が始まってしまったわけだが

 

小夢は何か汲み取ったような様子で、僕の前の席の椅子を調整し、雲逸がそうしていたようにして椅子の背もたれに腰を下ろした。ただ彼女の制服のスカートが少し短めだったせいで、彼女がスカートを太ももで挟んで座っていたとしても、僕は視線をどこにやっていいのかまだ分からない状況だった。

 

「スパッツだよ、何が見えると思ってるの?」

 

なんてこった……自分の視線がこうまで雄弁だとは思いもしなかった。

 

けれどこれだって僕ばかりが悪いわけではないのだ。彼女は身長こそ高くはないものの、両足はとても綺麗で、黒色のストッキングとスカートの合間に見えるあの乳白色の絶対領域によって、僕は眼球をコントロールすることが難しくなってしまっていたのである。

 

「ご、ごめん……」僕は頭を下げた。

 

「いいよ、見たいなら見ててもいいから」

 

小夢は片方の眉を持ち上げ、上機嫌な様子でスカートの裾をゆっくりと引き上げ、秒速0.5センチメートルの速度で裾がめくれていった。

 

慌てて彼女の手を掴み、彼女のそんな行為を阻止すると、僕は義を滲ませた口調でいった…


「スパッツを見せないで。僕の美しい妄想、神聖なる領域を破壊することは認められない」

 

「変な人」

 

小夢は文句を言うと、スカートを掴んでいた手を放した。

 

「そうだ、そうだ」僕は唐突に約束事を思い出し、急いでカバンからDVDを取り出した。「DVDを貸してあげるって言ってただろ、家で見るといいよ」

 

小夢は嬉しそうにその「猛獣戦隊」とラベリングされたディスクを受け取ると、さっそくパッケージの裏面にあるあらすじを読み始めた。


彼女の両の瞳からはまるで興奮による光が放射されているかのようで、彼女が瞬きをするたびに、その光が煌めいているみたいだった。

 

僕は彼女がこの時に見せていた表情がとても気に入った。小さな子供がキャンディーを貰ったみたいだった。

 

小夢はこのコレクター版DVDを楽しんでいたし、僕もまたそんな小夢を見て楽しんでいたというわけだ。

 

彼女はキャンディーの包みを外すような速度で、すぐにパッケージを開けた。

 

するとどういうわけか、あの目の輝きがその途端に消え失せ、小夢の輝いていた表情が突然、暗転してしまったのだった。

 

「どうしたの?」

 

彼女は答えなかった。ただ『猛獣戦隊』のディスクを僕の机の上に置いただけだ。

 

僕が頭を下げて見てみると、ディスクの上にはこう記されていた……




『AV学園! 夢の教師と生徒の大〇交! 時間よ停まれ!』




 

誰がどうみても、それは自炊版のエロDVDだった。

 

ほんとうに心から願ってしまうところだった。この時の僕の手に縄が握られていたとしたら……僕はマジで……

 

「この変態! 学園モノが好きだっていうんならまだしも! 先生なんて五十歳なのにそれでも……それでもいいとか……うう、本当に気持ち悪いよ!」

 

小夢は顔を真っ赤にさせ、大声で僕をそう叱責した後で席を離れていった。僕のような変態とはそれ以上会話なんてできないってことだろうな、と僕は思った。

 

もし僕の手元に縄があったら、僕を天井から吊るすだけの縄があったら……解脱していたところだ。

 

天井板を見上げ、僕はゆっくりと背もたれに体を預けながら、ぶつぶつと独り言を呟いた。


 

「金玲ねえさん……とうとうやってくれたな」

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