第19話姉から友人は大切にしろと言われているんだが
「女ってのはみんな母性愛を持っているもんさ。ことに先輩はお前のことを小さいころから面倒みて来た。ここに来て彼女はもうお前に全身全霊で当たれないようになってしまっているんだ。いきおい根拠のない苛立ちを抱いてしまう。俺がみるに、大半は自分自身に対する苛立ちなんだよ」
「だけど、僕が金玲ねえさんと部屋を交換するって言ったら、怒り出したんだぞ」
雲逸は諸葛亮光明のような表情で、ゆっくりとこういった…
「これから彼女が彼氏を作れば、きっと部屋を交換するようになる。だからお前がその話題を持ち出したりしたら、余計に苛立ちが募るわな」
俗に、当事者よりも傍観者の方が真理を見ているものだという言葉がある。まさにその通りだというわけだった。
僕と奴とはわずかな言葉しか交わしていないというのに、奴はそれだけでカイコの繭から糸を紡ぎ出すようにして謎を解いてしまい、その真実の姿を明らかにしてしまったのだった。
「じゃあ僕はどうすべきなんだ?」
「簡単な話だ。お前の五つ目のねえさんに言うのさ、彼女の心の中にいる弟はもう大きくなっていて、彼女がいない日々も受け入れることができるようになったんだって。安心して男性と交際してくれってな」
「よし、分かった。さすがは女性観察家だけのことはあるな」
雲逸は両腕を胸のところで組み、普段からのローテンションからすると珍しく得意げな態度を見せた。
短い休憩時間ということもあり、教室はざあざあと騒がしかった。隅の席にいた僕たちはこれといった風雲的な人物というわけでもなく、そのせいでクラスにいた連中は僕たちのことなんか気にしてもいないのだけれど、しかし小夢だけはなぜか僕たちの元に現れるのだ。
ちょうど今みたいに。
「なに話してるの?」小夢は僕の机の傍に立った。
雲逸はまるで猫に遭遇したネズミみたいに、トイレに行くとだけ言い残し、尻尾を巻いて跡形もなく逃げ出してしまった。
「あの人ってどうして私を見るとどっか行っちゃうの?」
小夢は困惑した様子で僕にそう訊いた。
兄弟の道義として、僕は奴が女性をのぞき見しているところを目撃されてしまったから、恥ずかしくて小夢の顔を見ることはできないなどとは、そう簡単に話すわけにはいかないのだった。
僕もAVを見ているところを三つ目のねえさんに目撃されてしまった後は、羞恥から一週間は三つ目のねえさんを見られなかったのと一緒というわけだ。僕には良く分かる。
「あいつは女性に対してはいつもああなんだ、気にしなくてもいいよ……同じクラスで付き合って長いけど、僕だってあいつが女子と話してるとこは見たことないし」
僕は意図が伝わるようにと願いながら、そう誤魔化した。
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