第17話姉から不穏な空気を感じるんだが

 

僕は目と口をあんぐりと開けたまま頷くことで、なんとかこの一連の質問に答えた。

 

香玲ねえさんは僕を押しのけると、彼女のベッドと僕のベッドの間に座り、腰を曲げて僕の手にがっちり噛み付いて来た。

 

そう、その通り。今しがたまで香玲ねえさんが快適に枕にしていたあの手だ。僕は恩を仇で返すというのがどういうことなのかということを目撃してしまったというわけだった。

 

噛み付くのをやめると、香玲ねえさんは黙り込み、腰を移動させ、自分のシングルベッドで横になった。パンダの掛布団を引っ張り、その下に隠れてしまったのだ。明らかにまだ怒っているようだった。

 

僕は噛み痕の残る手をさすりながら、しばらくどうすれば香玲ねえさんの機嫌を取ることができるのか思いつかなかった。

 

その一方で香玲ねえさんは、掛布団の下に頭を隠したり、また掛布団を引き下げて僕を見たり、また布団を被ったり、また見たり……そんな風なことを三回、四回と繰り返した後、とうとう我慢できなくなって僕の傍に戻って来た。

 

彼女は唇を噛み締め、眉間に謝意を滲ませながら、両手で僕の傷を撫でていた。目を赤くさせてすらいる始末だった。

 

「痛い? 薬塗った方がいいかな? ごめんね……おねえちゃんもわざとじゃないんだよ。すごく痛いのかな……傷跡が残ったりしないかな?」

 

「……わざとじゃない?」

 

「龍龍が私のことを怒らせたんでしょ!」

 

「……」

 

「痛い?」

 

「まあ……」

 

「じゃあ早く寝た方がいいよ」

 

香玲ねえさんは僕に代わって賭け布団を引き上げると、目元をこすり、自分のベッドへと戻った。

 

「はぁ……」


僕は突然ある重要なことを思い出すと、体をよじり、香玲ねえさんのところに向かった。


「香玲ねえさんと金玲ねえさんって仲良いの?」

 

「もちろんいいよ、私と金玲ねえさんは姉妹の中で一番仲良いもん」

 

香玲ねえさんは髪の両端をつまみ、ぐるぐると回してみせた。

 

「そうだよね、双子って血は水よりも濃いっていうし、ねえさんたちは外見こそ似ていないだけで、感情の方はきっとすごく良いはずだよね?」

 

僕はそんなことを言いながら、一方で香玲ねえさんの表情を観察していた。

 

香玲ねえさんは平然といった…


「うん、私と金玲ねえさんはとっても仲良いよ」

 

僕は話題を目的のところまで引き寄せたのを見て取ると、つづけてこういった…


「じゃあ僕と金玲ねえさんで部屋を変えたらどうかな。そうすればねえさんたち双子同士で一日中一緒にいることができるし、寝付かれない時でもおしゃべりができるだろ。女性同時の話ってのは積ものがあるだろうし」

 

しばらくすると。

 

香玲ねえさんは一言も話さず、声すら立てないまま、寝返りを打って僕に背中を向けると、それ以上何のリアクションも示さなくなってしまったのだった。

 

うん、香玲ねえさんはお怒りのようだ。


 

これは明日から、とんでもないことになるぞ。


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