第15話姉以外からもセクハラを受けることもあるわけだが

 

恥ずかしいことだって?

 

僕は周囲を見渡した。術科棟の最上階は僕と小夢だけで、間断なく柔らかい風が吹き抜けていた。他に人がいないとはいえ、日の光が差し込む公共空間で、恥ずかしくなるような話をするというのは、実際恥ずかしい話だった。

 

もしかして、僕と小夢の関係は、とうとう恥ずかしい話をしてしまうほどにまで進展したということなのだろうか?

 

僕はいささか浮足立っていた。僕にとってこんなことは初めての経験だった。

 

「狂龍くん、君に関する話を聞かせてくれてもいい?」

 

「僕の?」

 

「うん、君に関係することだけでいいから、私聞きたいな」

 

「ど、どうして?」

 

「もし私たちが互いのことを良く知らないままだったら、良い写真なんか撮れないし……それに君だけじゃなくて、私も私の話をするから」

 

なるほど……美術の課題の話か。

 

失望は禁じ得なかったものの、彼女が知りたいというのであれば、僕はこれまでのことについて、話さないというほどの理由もなかった。

 

簡単に家庭のことを紹介するところから始めた。父親、五人のねえさんたち、それから母親を小さいころから今まで見たことがないこと、父親も長期間家を空けていること、僕から言わせれば、一番上の皇玲ねえさんは父親のような人で、五つ目の香玲ねえさんは母親のようで、これまでそんな家庭環境に不満なんてなかったといったことを話した。

 

小学校の時にはクラスメートたちに孤児だといってからかわれたこともあった。


父親もいないし母親もいないからだ。結果、皇玲ねえさんが僕に代わってからかって来た連中をボコボコにし、後になってそいつらとは不思議な縁で友達となり、小学校を卒業するまで楽しい付き合いが続いた、ということもあった。

 

僕に関するエピソードは実際のところとても平凡なもので、特段語って聞かせるようなこともなかった。

 

僕が十分ほどかけて話し終えるまでの間、小夢はただ微笑を浮かべて相槌を打つだけだった。


そんな時一陣の強い風が吹き抜け、彼女の制服のスカートを吹き上げた。だけど僕は肩を並べて彼女と水道管の上に座っていたから、小夢はすぐにスカートを太ももで押さえてしまっていたし、風が行ってしまうまでそうしていたものだから、その素晴らしい光景を僕は少しも見ていなかった。

 

とてもガッカリだった。

 

「ガッカリした?」

 

彼女は頭を上げ、低い声で僕にそう訊いた。

 

ガッカリしたという感情が顔に出てしまっていたらしい、僕は頭を振って弁解するしかなかった…


「違う、違うよ、僕は見てなんかないって」

 

ぷっという声と共に、小夢は笑い出した。

 

「私が訊いたのは小さいころからお父さんよお母さんがいなくて、ガッカリすることもあったかってことなんだけど……まさか、君が私の……私の……」

 

恥ずかしすぎるのか、小夢は半分ほど先から言葉を濁してしまった。

 

見たところ僕のイメージは暴風に晒され、粉みじんに破壊されようとしている感じだった。

 

「ごめん……ぼ、ぼぼ……」


僕はどうやっても弁解する方法が思いつかなかった。

 

小夢は僕の肩を叩き、慰めるようにいった…


「いいよ、今回は見れなかったけど、次もあるって」

 

「……」

 

彼女に慰められるというのは、とりあえずおかしいような気がした。

 

僕から話すようなことはなくなってしまっていたから、つづけて小夢が自分に関する基本的な資料を話してくれた。


もっとも怖いのはネズミで、一番好きなのは誕生日で、彼女は美術に関心があるのだけれど、どういった進路に進んでいいのかまではまだ分からない。普段は女王・楊文泱以外とは、仲良くしている友達もおらず、彼女はずっと一人っきりといった格好で、安穏と学生生活を送っていたのだった。

 

それから、彼女は彼女が好きな特撮DVDのことについて触れた。


とうとう僕と彼女の共通の趣味が見つかったのだった。小さいころ、僕と二つ目のねえさんもかなりの特撮番組のDVDを見ていたことがあって、ヒーローが変身して怪獣をやっつけるという日本のテレビシリーズにのめり込んでいたのだ。

 

僕は小夢に、二つ目のねえさん秘蔵の日本から買って来た。デジタルリマスターされた復刻版DVDを、学校に持って来て彼女に見せると提案してみた。今しがたの罪滅ぼしの意味もあった。

 

思いもよらず小夢は強い関心を示した。止めどなくすごいすごいと言いながら、羨ましそうにしていた。

 

僕たちのおしゃべりはチャイムが鳴るまで続いた。

 

体育の授業はもともと今日最後の授業だった。かりにこのまま話を続けていたかったとしても、どのみち帰宅しないわけにはいかないのだった。

 

それに、僕にしても彼女を食事に誘うような大胆さは持ち合わせていなかった……だからお別れというわけだ。

 

最上階の鉄のドアの前で、小夢はそのまま行ってしまうと思っていたのに、彼女は突然そこで足を停めると、振り返って僕を見た。

 

「ほんとにほんとに見たい?」

 

彼女はそんな風にいって、僕を当惑させてしまった。

 

つづけて、小夢は夕日の光の中、夜が近づいて来る中で強さを増す風が吹いているのも構わず……

 






自分のスカートをめくりあげ、全てを露わにさせてしまったのだった!







 

僕はほんとうに目を疑った。


まさか、黒とは……

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