第14話おいウチの姉じろじろ見んな殺すぞ

 

「お前と映河の女子ってどうなったの? 進展はあったのか?」


僕には敵情を探る必要があった。

 

「うん……まあまあってとこだ」


雲逸の返事は適当で、僕に対する誤魔化しでしかなかった。


「今はLINEで連絡を取り合ってる。普段の話題を交換してるんだ」

 

なんてこった、奴はすでに女子と長時間に渡ってネット上で連絡を取り合えるようになっているのか、これはとんでもなくまずい事態だ。

 

女性句点王と呼ばれていた昔のこいつは、女性との会話がほとんど続かなかった。相手は「お風呂にするね」、「話があったら電話して」、「明日も学校あるから」だけで雲逸と会話していたのである。

 

日常生活のことでおしゃべりができるようになっていただなんて、思いもしなかった!

 

つづけて、僕は小夢のことを思った。僕と彼女の間では、美術科のグループ別発表に関すること以外、本当に何も話などしていないのだった。

 

「彼女は俺と同じで、読書が好きなんだ。おしゃべりも読書の話題ばかりだよ」


奴はそう付け足し、僕との距離を見せつけて来た。

 

「ふふん」


僕は冷笑を浮かべ、意地悪くいった…


「もし僕がその映河の女子に、お前が女性を覗き見するのが好きな変態だって言ったら、きっと……お前たちもそこでおしまいだろうな」

 

「はぁ、世間ってのは俺のことを理解してくれないもんだ」


奴は少しも焦った様子もなくいった。


「それに、李狂龍だってそんな勝ち目のない手段に出るような小物じゃないはずだろ?」

 

「……」

 

僕は言葉もなかった。正直なところ、僕はどうやってその映河の女子生徒と連絡を取ればよいのかすら分からなかったからだ。

 

雲逸は欄干に両腕を押し付け、望遠鏡を持って嘆いた…「あれってお前の四つ目のねえさんだよな、ふむ……双子だけど、お前と五つ目のねえさんってほんとこれっぽっちも似てないよな。ほんと女性ってのは神秘だ」

 

僕は持っていた飲み物を奴の後頭部に直接投げつけると、腹立たしくいった…


「ねえさんのことじろじろ見てんじゃねーよ、このインテリゴキブリ」

 

「ゴキブリどこ?」

 

最上階のさびた鉄のドアが開かれ、僕たちが反応する前に、すでに誰かのそんな声が聞こえた。

 

僕と雲逸は四つの目で同時に鉄のドアの方に向いた。そこに現れたのは嫌というほど顔を覚えた教官ではなく、僕たちのクラスメート、小夢だった。

 

面面相(互いに顔を見合わせるという意味の成語)というわけだ。三人集まっていたから、目が二つ余計に多いことになる。

 

雲逸は虚ろな様子で望遠鏡とノートを片付け、遥か遠くを流れる雲を眺めているフリをしていた。もうすぐ日が落ちようとしている茜色の空模様も相まって、真に迫った気象観察家っぷりだった。

 

「私と一緒で、体育の授業が嫌いなんだね」

 

小夢は通風孔の前を見付けて腰を下ろすと、両足をパタパタさせた。

 

「そうだ、提出しないといけない課題があったんだった。うっかり先生に提出するのを忘れてしまっていた」


インテリゴキブリはそんなことを言いながら鉄のドアまで移動していった。


「じゃあ俺は先に失礼する。でないと放課後になって先生が帰ってしまわれるからな」

 

そうして次の瞬間には、ゴキブリはドアから出て行ってしまっていた。

 

「あの人ってほんとに忙しい人だよね」小夢は笑っていた。

 

「そうなんだ、ほんとに忙しいんだよ」僕も笑った。

 

「実は話したいことがあったから、行ってくれて良かったよ」


小夢はパンパンと自分の太ももを叩いていた。自宅にいるかのようにリラックスしていた。




「でないと……少し恥ずかしかったからね」



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