第12話姉から風呂でセクハラを受けるわけだが
無罪放免というわけだ。
僕はとうとう胸の中にわだかまっていた大きな石を放り出すと、これ以上ないぐらいの速度で服を脱ぎ、もう少しで(我が主の恩に感謝します、微臣は失礼させていただきます)とまで言いそうになりながら、飛ぶようにして浴室に転がり込んだ。
皇玲ねえさんが何かの拍子にこれじゃまずいとか後悔してしまうことを恐れたからだ。そんなことになってしまえば今しがたの僕の哀願が全て水の泡となってしまう。
浴室で、僕は迅速に素っ裸になった。手洗い場の上に設置してある鏡の前に向かうと、九死に一生を得た後の凄惨な微笑を浮かべた。熱水を開けたことで浴室全体にもうもうと湯気が立ち込め、そうしてからようやく僕は本当の意味でリラックスすることができた。ここはまるで僕に残された最後の避難港のようだった。
姉が現れないという天国である。
「龍龍、もう体洗い終わった? 私もまだなんだけど」
「順番守って、香玲ねえさん」
ちくしょう! 皇玲ねえさんに話を通してからまだ風呂に入ってないだって、だったらその場で並んでてよ、香玲ねえさん。
「だけど私もう中にいるし、一緒に洗った方が、時間の節約になるんじゃないかな」
僕はほとんど首がちぎれそうな速度で猛然と振り向いた。香玲ねえさんはすでに浴室のドアを突破していて、僕に残された最後の天国を破壊してしまっていたのだった!
香玲ねえさんはすでにシャツのボタンを外し、良いも何も訊かないまま、堂々と浴室に足を踏み入れていた。端的にいってチンピラよりもチンピラみたいな大胆さだ。
「な、ななな何してんだよ─?」
僕は両手で大事な部分を隠し、無力ながらそう抗議した。
「……」
香玲ねえさんは顔色を暗転させると、自分のシャツを脱ぎ、こう謝ってきた…
「皇玲ねえさんに密告するべきじゃなかったよね……おねえちゃんの責任だよ、ごめんね」
今は誰もそんな話はしてないんだよ、香玲ねえさん?
まずい、香玲ねえさんはすでに下着まで脱ぎ捨て、ねえさんたちの中でも最も発育良好な胸を白い煙の中で露出してしまっていた。
事態はすでに焦ったところで引き返せないところまで来てしまっていたのだ。僕はただ太ももでタオルを挟み、浴室の中で頭からお湯をかぶり、一刻も早く用事を済ませて逃げ出すしかなかったのだった。
なんてこった、高校に上がってからのことは、みんなでちゃんと話し合ったじゃないか、風呂は一緒に入っちゃいけないって、なのに香玲ねえさんがまさかこうも堂々と約束を破ってくるなんて。
「おねえちゃんに体洗わせてくれないかな、それで罪滅ぼしってことにできない?」
香玲ねえさんはそんな質問をしている間にも、すでに執行を始めていた。僕の返事など実際のところ重要ではないのだった。
香玲ねえさんは自分と僕の服を洗濯カゴに放り込んだ。香玲ねえさんは僕たち家族の中で最も苦労している一人だった。学校で勉強をしている以外にも、各種の家事を担当し、忙しすぎて休日だって休めないぐらい、他の家族の世話に追われているのだ。
もともと服を片付けてくれるなんてちょっとした感謝の言葉をかけるぐらいの話だったのだけれど、香玲ねえさんが全裸という目下の状況では、僕の感謝の言葉もねじ曲がってしまうことになった。
「香玲ねえさんも同意してなかったっけ、高校に上がってからは一緒に風呂には入らないって?」
僕は口ではそんな恨み言を言いながら、同時に体の方は貢丸(中国南部、台湾などでみられる豚肉を団子状にした料理。スープの具材として使用する)のように丸めていた。
香玲ねえさんは慎重に湯船に入りながら、弁解するようにいった…「だけど、もちろん罪滅ぼしっていうのとは違うよね。先に頭から洗うよ。目を閉じて。お湯かけるから」
「僕たちはもう高校生なんだよ、こんなことするべきじゃないよ」
そう言いながら、僕は大人しく香玲ねえさんの両手に頭を洗わせているのだった。
「龍龍は一歳の時から私の弟だし、五歳でも私の弟だったし、十七歳でも私の弟だし、三十歳、四十歳、五十歳でも私の弟なの」
香玲ねえさんの指が僕の頭皮をマッサージしていた。
「まさか龍龍はお姉ちゃんが歳をとってしまったからって、おねえちゃんのことを捨てる気?」
捨てるなんてこと、もちろんするはずがなかったけれど、そもそもが今この状況からして、何の関係があるのかと僕は感じているのだった……
香玲ねえさんの両手が僕の後頭部から、背中にかけて撫でおろされ、ほっとしたような笑い声がした…
「龍龍も大きくなってるんだね、あと何年でだっこできなくなるかな」
「……たぶん、もうだっこはできないと思うけど」
「どうしてそんなこと言えるのよ?」
「ねえさんは筋肉の分まで胸にまわってるだろ」
香玲ねえさんは平手で僕の尻を叩くと、腹を立てたようにいった…「なにそれ? じゃあだっこするから見てなさいよ」
「いいよ、聞かなかったことにしてよ」
「ダメ、試してみるから見てなさいって」
「やめてって、ほんとに恥ずかしいから」
「前はだっこしてあげたら、嬉しそうにしてたじゃない」
「十年前の話だろ、もうそんなこと言わないでよ」
「十年も経ってないでしょ、三年、四年ぐらい前のことだよ」
からだを洗っている間中、僕と香玲ねえさんはそんな風にしてお互いにさして重要でもないくだらない話をし合った。すぐに僕の上半身は非常に綺麗になった。僕が自分でやるよりもずっと綺麗だっただろうけれど、僕はこのままだと……
このまま「下」に行ってしまうのは危険すぎる。
僕はこっそりと体を捻ると、香玲ねえさんの手を掴み、彼女がびっくりして言葉を発しない内に、その手からスポンジを奪い取ると、立ち上がり香玲ねえさんに背中を向けたままで、バスタブ傍のシャンプーを何回か出した。その場で下半身を適当に洗ってしまばいいだろうという考えだった。
「そんなんじゃ洗えてないよ」
香玲ねえさんは抗議すると、スポンジを奪い返そうとした。
けれど僕は力を入れて彼女の手を押しとどめ、更に素早くこすり、お湯をかぶってざっと流してしまうと、小さなタオルで重要な部位を隠しながら、さっさとバスタブから出てしまった。香玲ねえさんが文句を言うのも構わず、強制的にその気まずい騒ぎを終わらせてしまったというわけだ。
それから。
僕が寝ようかという時になって、誰かが報告でもしたのか、皇玲ねえさんが僕の部屋にやって来て、僕がまだ子供であることを証明しようとして来た。彼女は僕を抱き上げようとしたようだったけれど、結果としてうっかりベッドの上で転倒する騒ぎとなり、僕はもう二度とこの手の話はしないと誓ったのだった。
僕から言わせれば、ねえさんというのは永遠にねえさんのままだ。たとえ僕を抱き上げられなくなったとしても、やはりまだねえさんなのである。
僕には分かっていなかったのだった。どうしてこの一件が、彼女たちを緊張させてしまったのかを。
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