第11話姉から三十になるまで外の女を禁止されているわけだが
僕は人形のように温和かつ従順な様子で、両手まで動かしていった。「そんなわけないよ。僕にどんな彼女がいるっていうのさ」
「ふふ、まだ私にそんな嘘を吐くわけ?」
一番上のねえさんはそう冷ややかに笑うと、白い瀑布のような長髪を左右に、左肩と右肩で分けて胸の前に垂らした。そうするとベストのドクロが僅かに隠れるようになった。
「そんなことないよ、ぜったいにないって、ねえさんだったら分かるでしょ、僕は悪い奴によって嵌められているんだ」
僕はそう無実を訴えた。悪い奴という言葉に触れると、五つ目のねえさんの肩が縮こまった。
「まだ否定するのか。香玲が今日の昼休みに見たことを全部私に話してるんだぞ!」
「おねえちゃん……秘密は守るって言ったじゃない、なんで言うのよ!」
五つ目のねえさんは手に持っていた元素表を放り出し、僕のベッドの上に突っ伏した。
そうだ、李香玲というのが僕の五つ目のねえさんの名前なのだった。悲しいことに、彼女は僕を背中から刺して来たというわけである。
「完全なる誤解だよ、僕はクラスメートと一緒にグループ別発表の打ち合わせをしていただけなんだから」
僕は心を落ち着かせ、平静さを装った。
目下のところは生と死の境目にあるわけだ。もし一筋の破たんでも見せてしまおうものなら、この後にどんな展開が待っているかなんて想像もしたくないほどだ。
過去の記憶がゆっくりと沸き上がりはじめた。僕がこうまでして警戒するのは、全く原因のないことではなかったのだ。
僕の十数年という人生の中には、当たり前だけど女性に告白して失敗するという場面は幾度となくあった。
けれどその大部分は僕のねえさんたちによる各種様々な足の引っ張りという「功績」に帰するところであり、同時にそれらは確実に人類の想像の限界を超えてしまっているような代物なのだった。
一番上のねえさんは本名を李皇玲というのだけれど、彼女もまた自分の名前に負けず劣らず、渾身から皇帝のような覇気を発し、ゆっくりとこう口を開いた…
「高校生ってのはまず学業に最も重きをおくもんだ、私が老後を迎えてから後、あんたに頼って暮らせるようにね……女と付き合うなんてそんなくだらないこと、三十五歳まで待ったって遅くはないんだよ」
「……」
三十五歳、僕はその言葉を聞くと手足に悪寒が走った。
「皇玲ねえさん、そんなのダメだよ!」
僕と最も親密な香玲ねえさんはやはりそのまま見ていられなくなったらしく、すぐに僕のために抗議してくれた。僕の凍り付いてしまった心は、とうとう一抹の温かさに触れることができたというわけだ。
「龍龍には五人もお姉さんがいるんだから、女の子と付き合わなくっても大差ないじゃない。龍龍が三十五歳になったからって他の女の人と付き合わせるなんて私は反対だよ!」
違った。ごめん。僕は香玲ねえさんのイカレ具合が他のねえさんたちを凌いでいる事実をすっかり忘れてしまっていた。
皇玲ねえさんはヒゲの生えていない下あごを撫で、沈んだ口調で唸った…
「香玲の言う通りだ、我が家にとって男手は貴重品、よそ者にくれてやる道理はないな」
「皇玲ねえさん……僕がクラスメートと一緒にご飯を食べていたのは、純粋に成績を考えてのためなんだよ」
この時、僕はいくらか涙でも流すべきだったのだろうが、僕にはそんなものは絞っても出て来なかった。
「そうだな、この件に関しては金玲と討論してみないといけないだろうね」
皇玲ねえさんは相当な上から見下ろしながらも、意外にも多少の躊躇をみせた。
原因は簡単だ。李金玲というのは僕の四つ目のねえさんで、もし皇玲ねえさんが明成組だとしたら、金玲ねえさんは東廠で、皇玲ねえさんがビンラディンだとしたら、金玲ねえさんはアルカイーダであり、皇玲ねえさんがAK47だとしたら、金玲ねえさんが中間型弾薬であり、皇玲ねえさんがランボーだとしたら、金玲ねえさんはランボーナイフだからだった!
金玲ねえさんというのはつまるところ皇玲ねえさんに対して堅固な信仰と支持を示している人物なのである……
「金玲ねえさんの手を煩わせることなんかないよ、僕は女の子に対する私情を捨てて、授業に専念するから」
僕はしっかりした足取りで踏み出すと、皇玲ねえさんの前に進み、膝を着くと、彼女の繊細な手をとった。
「皇玲ねえさんも僕を一度だけ信じてくれない? 皇玲ねえさん……僕はこんなにもねえさんのことを敬愛してるんだよ」
「来なさい……」
皇玲ねえさんは両腕を広げると、慰めるように笑みを浮かべた。
「ねえさんにだっこさせるの」
なんてこった、僕は今年でもう十七歳なんだぞ、僕のことをいい加減小さな子供みたいに扱わないでくれないか? 僕にだってプライドってものがあるんだ!
「ん?」
皇玲ねえさんの眉間にわずかにシワが寄った。
僕とは何歳かしか離れていないはずなのに、この老成した貫禄はまったく尋常ではなかった。
けれど仕方がない、男たるもの伸びるも縮むも自由自在、金玲ねえさんを騒ぎに加えさせないようにするためにも、僕には妥協することしかできないのだった。
皇玲ねえさんはベッドの上であぐらを組み、僕は片膝を床につけていた。体を前に傾かせてから、しっかりと皇玲ねえさんを抱きしめた。
高低差があるせいで、僕の顔はちょうど皇玲ねえさんの扁平な胸のところに当たり、かつ彼女がブラジャーを嫌っているせいで、普段にもまして扁平な感触だった。
幼稚園の子供を抱き抱えるようにして、皇玲ねえさんは両手を僕の背中へと回すと、下あごで僕の頭髪をぐりぐりと揉んでいた。大体抱擁はたっぷり三分程度にもなっただろう、そうしてから彼女はようやく僕を解放してくれた。
「よし、今回の件に関しては見逃してやろう」
皇玲ねえさんは僕の首元で鼻を動かしてから、僕の頬を軽くはたいてみせた。
「匂うぞ、はやく風呂に入って寝なさい」
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