第10話姉から普通にDVを受けているわけだが
一日中、僕は空を飛んでいるような気分だった。
雲逸が授業終了のベルがすでに鳴り終わっているぞと声をかけて来るまで、僕は第八コマの授業がもう終わっていることに気付かず、みんなはとっくに教科書を片付けて家に帰ってしまっていた。
僕は何気ない感じでこう訊いてみた。機能の映河の女子生徒たちとのデートはうまくいったのか?
意外にも普段は寡黙を好む雲逸が、しばらくスイッチを入れられることなく片付けられていたラジオみたいに、滔々と途切れることなく昨日の出来事を僕に共有してきた。
僕を嫉妬に駆り立てさせた挙句死なせてやろうという策略であることは明白だった。
奴がここまで喜んでいるところを見るというのは非常に難しい話ではあったけれど、口の上では奴を狂ったようにさせておくわけにはいかず、僕は依然として「相手は遊んでるだけだろ」、「次はないって」、「お前をヲタクだって知ってたら連絡なんてして来なかっただろうにな」という風に言葉で反撃し、雲逸も僕にいくつかキツイ言葉を投げ返して来た。
僕たちは教室から校門のところまで、言葉の上では互いに攻撃し合いながらも、そんな攻撃の合間に一緒にネカフェに行って遊ぶという約束を取り付け、その後は三時間ほどをかけてから家に戻ることになった。
バーチャル世界における殺し合いなんていうのはどれもそう大差ないものだ。毎回、ネカフェを後にしてからバトルの流れについてあれこれ話をするけれど、明日になって目が覚めてしまえば、そういった記憶はほとんど忘れてしまっている。
ファストフード性の娯楽、ファストフード性の快楽、そんなのはただの時間つぶしに過ぎないものだった。
家に戻った時には、もう九時を過ぎてしまっていた。
遅くまで自習している四つ目のねえさん、五つ目のねえさんもすでに戻っていた。
僕は家のドアを開けた瞬間、瞼の皮がびくびくと痙攣するのを感じた。真っ暗で誰もいない客間の奥からなにやら畏敬の念を抱かせる雰囲気が漂い出していたのだった。
この時間帯だと、二つ目のねえさんを除いて、ねえさんたち全員が家にいるはずだった。泥棒が入り込んでいるといったことはないはずだ。
客間の照明を点けると、明かりが暗がりを薄めてくれた。僕は一日中履いていたスニーカーを脱ぎ、重たい通学カバンを下ろすし、奥へと進んでいった。
僕の予想に反さず、三つ目のねえさんは自分の部屋の中にいるらしい、僕はドアの隙間から漏れる明かりを見ると、わずかに息をついた……次に四つ目のねえさんの部屋の前に来ると、中から四つ目のねえさんがかけている音楽が聞こえて来た。最後に僕は自室の前まで進み、一番上のねえさんの部屋を仰ぎ見た。何の動きもない。また酔って死んだように寝ているのかも知れない。
瞼の皮のは空騒ぎだったようだ、家の中はいつも通り平穏だった。
僕はカギを回し、僕と五つ目のねえさんの部屋へと入った。
そうして頭を上げた時には、その隠しようもない殺意が、すでに僕の全身を粟立ててしまっていたのだった─
一番上のねえさんが腕組みしながら、僕のベッドの上に座っていた。
特大サイズの丸首の大きなベストに太ももまで覆われ、胸元にプリントされている凶悪なドクロのイラストが、僕にひどく強い既視感を覚えさせた。一番上のねえさんが全身から発している殺意の念とほとんど同じものだった。
僕は一体何をやらかしてしまったんだ?
保護者が無能なせいで、僕たちの家庭では放牧主義が採用されて来た。かりに今日、こうして遅く帰宅したとしても、殺気を噴き出すようなことはないはずなのだ。
僕は瞼を持ち上げ、五つ目のねえさんが一番上のねえさんの背後で、化学の周期表を暗記しているところを見付けた。
はっきり言うけど、いくらなんでもわざとらし過ぎる。
「一度言わなかったっけ、あんたはまだガキだから、女と付き合っちゃいけないって?」
もしこれが一番上のねえさんが放ったデス・レイだとしたら、僕はすっかりやられてしまっていたはずだった。
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