第7話姉から一時的に解放されることもあるわけだが


「はい……どちらさまで?」

 

「徐心夢です」

 

「ああ、はい」

 

「電話しちゃって悪いんだけど、私たちグループ別発表で一緒になってるじゃない、覚えてる?」

 

「なんてこった……すっかり忘れ……すっかり覚えてるよ、ちゃんと覚えてる」

 

「グループ別の発表まであと何日かしかないから、私たちはこの何日かの間に頑張って仕上げないといけないわけだよ」

 

「そう、そうだね、で、僕は何をしたらいいわけ?」

 

「うーん……電話だと説明しずらいな。明日学校に来た時に話すよ。そこで話し合いもしよう。いいかな?」

 

「わかった……」

 

「よし、じゃあ明日ね」

 

これって初めて女子から貰った電話じゃないか? 僕にはなんとも言えなかった。

 

最初こそイタズラ電話ではないかとまで考えていた僕だったけれど、美術の授業でのことを思い出した。


先生は確かくじ引きでグループ分けを決めてしまったんだった。ただその時の僕はマンガを読んでいたか携帯電話をいじっていたか、あるいは携帯電話で●●漫画でも見ていたのか……よく覚えていないのだ。どうせ美術の授業なんてのはサボるためにあるようなものだからだった。


 

教室で徐心夢を目にすることで、だんだんと真実味を感じ始めて来た。

 

徐心夢、みんなは小夢と呼んでいる彼女は、人形のような可愛らしい顔に反してスタイルの良い体つきをしていて、毎日元気いっぱい、ほとんど太陽を連れて歩いているように光り輝き、古臭いおかっぱスタイルの髪型でさえ、僕からすれば彩りに満ちているように見える。同じような女子高校生の制服でも、彼女が着ているというだけで言葉にはできない爽やかさが生まれるのだった。

 

こんな女の子が、しかも同じクラスにいるというのに、まさかこれまで告白したことがないなんてことがあるのか? どうして彼女のことを見落としていたんだ?

 

先生が教壇で授業をしている間、僕の頭は黒板に向けられてはいたものの、両目は小夢の上へと注がれていた。この突然、僕に電話をくれた女の子のことが、非常に気になっていたのだった。

 

放課後のベルが鳴り、先生が時間通りに授業終了を告げても、僕は他のクラスメートのように、鞍が外された馬みたいに教室の外に飛び出していくようなことはしなかった。僕はそのまま小夢の観察を続け、彼女もまた席から立ち上がり、笑いながらクラスの女子と一緒に教室から出ていくのを待っていた。

 

僕はそこで突然理解することになった。霊感が瞬間的に閃くように理解したのだ。

 

小夢は楊文泱の親友だったのか!

 

どうりで小夢に対する印象が薄いわけだ。脳内にある一種の保護機制が、僕に対して自動的に楊文泱に関連する全てを遠ざけようとしていたのだろう。彼女の友達もその中に含まれていたというわけだ。

 

楊文泱は正直な話、普通の学生なんかよりも遥かに多い異名の持ち主だった。


その数が多すぎて僕なんかは数えるのも嫌になるぐらいだ。恐ろしい女なのである。非常な恐ろしいS属性で、その身に長い光沢のある金属の剣を帯びているかのように、誰かれかまわず近づく連中にケガをさせてしまうのだ。

 

彼女に関する伝説は数多いけれど、彼女の兄貴が野球部の主力たるキャプテンを務めている男という話で、聞いたところによると不良スレスレ、学校の外で十数人という人数を相手にバットでボコボコにし、全勝してしまったというのだ!

 

高一のころの僕はそういうことを知らなかった。


ただ楊文泱のもつ女王様のような高貴な顔立ちと気質にほだされ、心を込めて用意したバラの花束とラブレターを手に、放課後の時間を利用して告白しようとしたのだった。

 

僕は当時の状況を今でも覚えているけれど、それは正直なところあまりにも悲惨な記憶だった─


 

「口を開けなさい」


 

楊文泱は僕の気持ちを受け取るとそういった。


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