第5話姉から一人部屋を禁止されてるんだが
まさか賭けの勝敗はもう決してしまったということなのか?
僕は懸命に頭を振ると、負の感情を振り払った。
「レベルの合わない敵に挑んだらロクなことにならないんだぞ……」
僕はそんな批判をぶつぶつと呟いた。学生たちがすっかり出払ってしまった校門前では、そんな言葉を耳にしていたのも僕一人だけだった。
元はネカフェに行くつもりだったけれど、今となってはゲームで殺し合いをやろうという気分では完全になくなり、漫然とバス停に向かいバスに乗って帰宅するしかなかった。
実際のところ、自分のパソコンを使ってLOLをプレイしたって何の問題もないわけだし、数十元をネカフェで使うこともしなくて済むわけだ。けれどあの相手と肩を並べてののしり合うような感覚は、冷たいモニターの中のパーティメンバーではその代わりなんて務まらないものなのだ。
僕は雲逸とこんな賭けを始めてしまったことを少し後悔していた。もしこの賭けが奴を刺激してしまうことさえなかったら、今ごろ僕たちはネカフェに遊びに行く途上にあったかも知れないじゃないか。
世の中には怒らせない方がいい人間というのがいる、雲逸がまさにそれなのだった。
僕はバスの後ろの方の座席に座った。バスの半分は学生で埋まっていて、当然ながら映河高職の学生たちも乗り合わせていた。
僕はこっそりと彼女たちを盗み見た。とにかく言えることは彼女たちは体からある種の光芒を、遠巻きに見ているしかなくまた汚しがたい光芒を発しているようだということだけだった。
どんな男だったら彼女たちみたいなのと付き合えるんだろう?
僕には全く分からなかった。
幸運なことにそれからずっと、彼女たちには僕が彼女たちを盗み見ていると気づかれることはなかった。四人の女子生徒たちはわあわあきゃあきゃあと、騒がしくおしゃべりを続け、僕の脳内に一幅の活き活きとした青春の一ページを残してバスを降りて行った。
次の駅で、僕もバスを降りた。
バス停からそう遠くない家へと向かった。
それでもまだ四つ目のねえさんと、五つ目のねえさんが学校で遅くまで自習している隙を狙い、九時までしっかり遊んでやるつもりではあった。
彼女たちが帰宅するまでに戻ればよいのだ。けれど今また雲逸がこの瞬間にも男女三人ずつのデートで、奴が持てるあの容貌と雰囲気で映河高職の女子を惹き付けているのだと考えると、一方で僕はゲームをしようとしているわけで……そう思うととてつもなく悲しかった。
家のカギを取り出しドアを開けると、僕は肩にかけていた通学カバンを下ろした。まだ靴を脱いでいない内から、靴箱の上にブラジャーが引っ掛けられていることに気付いた。
この手の代物は我が家ではあまりにも見慣れたものだったけれど、靴箱の上に現れるというのは少しといわず尋常な事態じゃなかった。
僕は触りたくないので、少しの距離を置きながら観察することにした。
「うん、このサイズ、三つ目のねえさんと五つ目のねえさんじゃないな。この色は一番上のねえさんと四つ目のねえさんが好きそうなやつだ。このブランドも僕の知る限り一番上のねえさんと三つ目のねえさんしか買ってないはず、さらに靴箱の上に放り出すというこの豪快な性格からいって、これは一番上のねえさんがやったとしか考えられないな」
探偵のように独り言を呟きつつ、そうしてから一番上の姉が自宅に戻っているということに意識が及ぶと、僕の体は突然脅かされた猫のように、全体が縮み上がり、産毛の一本一本が逆立つのが分かった。
絶対にゆっくりと歩かなければ、絶対に物音ひとつ立ててはいけない。僕は抜き足差し足でスニーカーを脱ぐと、足音を立てないようにして自分の部屋へと向かった。そうしていると突然、時間の流れが緩慢になってしまったように感じられた。
僕の家は実のところそう広いわけじゃない、標準的な4LDKだ。
玄関からまっすぐ進むと客間があり、もっと奥に進めば廊下とキッチン、左手には三つ部屋が並んでいて、二つ目のねえさん、三つ目のねえさんの寝ているのが最初の部屋で、一番上のねえさん、四つ目のねえさんは二つ目の部屋、五つ目のねえさんと僕は三つ目の部屋で寝ている。右手側にある唯一の主寝室はもともとは父さんの部屋だったのだけれど、父さんは普段家を空けているから、一番上のねえさんによって無情にも徴収されてしまっているのだった。
僕の家は母権社会だ。仮に父さんが珍しく帰宅して、自分の部屋が占領されてしまっているのを見ても抗議の声すら上げられず、枕と毛布を持って四つ目のねえさんのところに行くしかない。
その結果四つ目のねえさんからは「変態鬼父」などと罵られ、可愛そうな父さんは客間のソファで眠ることになるのだ。
こんな風な脆弱な男から生まれた男なんて、そりゃ脆弱だと運命で決まってしまっているわけだ。何が李狂龍だ、十七歳にもなる男がねえさんと一緒に寝起きしているだなんて、そんなの脆弱という以外に言いようがあるか?
僕が頭を振りつつ部屋のドアに近づいてみると、主寝室のドアの隙間から黄色い明かりが漏れているのを確認した。一番上のねえさんはどうも僕が帰宅したことには気づいていないようだ。
部屋に入ると、僕はいつものように深い溜息を洩らした。抜けることのない習慣みたいなものだ。
僕の部屋は、白と黒に埋め尽くされていた─
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